2023 Fiscal Year Research-status Report
エネルギー分解を伴う高輝度放射光X線ビーム観測手法の開発
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22K12668
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Research Institution | Japan Synchrotron Radiation Research Institute |
Principal Investigator |
工藤 統吾 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 研究DX推進室, 主幹研究員 (40372148)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
高橋 直 公益財団法人高輝度光科学研究センター, 光源基盤部門, 兼務職員 (60426525)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 量子ビーム / アンジュレータ / シンクロトロン放射光 / X線 / ビームモニター / 検出器 / ダイヤモンド / 回折限界リング |
Outline of Annual Research Achievements |
シリコンドリフト検出器(SDD)を用いたビームの可視化により、ビームモニターを構成するピクセル型検出器のエネルギー分解能を極限まで高めて得られる理想的な画像を確認した。 SDDはFWHM:200eV程度のエネルギー分解能を容易に得られることから、これをピンホールスキャンすることで得られる走査型のイメージ情報は、本研究が目指す画像検出器によるエネルギー分解型のアンジュレータ光観察の良いリファレンスとなる。走査型であることから、測定時間は莫大に長くなるが、得られる画質については、画像検出器で得ることが難しい高いエネルギー分解画像が期待できる。 我々は、従来2次元検出器を配置していた場所に配置したSDDを2次元スキャンすることでエネルギー分解されたアンジュレータ光の画像を得た。このためにSDDの入射窓を覆うピンホールを開発した。SDD直前のピンホール自体の蛍光に起因するノイズがスペクトルを汚染し、取得画像が乱れる問題が発生したが、FITSによるシミュレーションなどを用いて、Moによる2重ピンホールで克服した。得られた画像は、従来2次元検出器SOPHIASで得ていたエネルギー分解画像に比べ、上流のビームサイズ制限用のフロントエンドスリット開口が狭い状態でも十分にビーム重心の算出が可能な鮮明画像となった。 更に、我々は、より広い範囲のビームの放射形状を確認するべく、SDDをダイヤモンド散乱体の真空チャンバーの出口のピンホール近傍に静止配置し、フロントエンドスリットを狭い開口としてスキャンするという測定を行った。これによって得た走査型エネルギー分解画像は、従来見られることが無かった、フロントエンドスリット上流の放射形状をエネルギー毎に可視化したものとなった。これによりビームの形状がエネルギー毎に複雑を変わる様子を始めて確認することに成功した。 これらの成果を第37回日本放射光学会にて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
予定していた高いエネルギー分解能を有する2次元検出器の調達に時間を要するために本年度はSDDを用いて、目標とされるビームモニターの性能を先行評価した。 本方針で得ることのできるビームモニターの性能を制限する最大要因である検出器のエネルギー分解能を理想的な状況にしたうえでビーム観察を行ったことで、本方法がビームの可視化において究極の方法であることを明らかにすることができた。 この実験結果から、エネルギー分解能が十分であれば、フロントエンドスリットを小さく絞った状態でも、ビーム重心を算出できる情報を得ることができることがわかった。これにより、従来大きな問題となっていた熱負荷とメンテナンス性の問題を克服できるビームモニター開発のめどが立った。 更に、このSDDを用いた方法の発展形として、小さく絞った高熱負荷フロントエンドスリットのスキャンにより、アンジュレータ放射の軸外の広い範囲を含む形状がエネルギー分解可視化できることが分かった。これは強力な熱負荷のために従来全く観察されてこなかった、フロントエンドスリット上流のアンジュレータ放射形状について初めて情報をもたらしたものである。これは当初我々が想定していた2次元検出器を用いたビームモニターだけ得られない、大きな発見である。この成果は新しいビーム診断ツールの提案につながった。これによりアンジュレータ放射の広範囲診断が可能となった。これは既存のスリットを用いることから、どのビームラインでも原理的に計測が可能なものであり、放射光リング加速器全体にわたる光診断系を極めて低予算で配置することが可能であることを示した。 我々は想定されていた2次元検出器の性能を超えたビーム診断系を手にいれたことになる。これらの成果は日本放射光学会に報告した。 以上から本研究は、当初計画以上に進展していると位置付けている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までの研究で明らかになったことは主に、①エネルギー分解能を有する2次元検出器とピンホールカメラによるビームモニターは従来見ることができなかったアンジュレータ放射のエネルギー分解情報を与える有用なツールであること、②もしも2次元検出器がSDDレベルのエネルギー分解能を有するならば、本方式は狭くしたフロントエンドスリット下流のビームからでも光軸情報を正確に割り出せる可能性があること、の2点である。これに加え、③SDDを用いたビーム診断系として、フロントエンドスリット上流の広範囲の放射パタンを見ることができる方法論を見出した。 今後は、上記①、②の発展形として、高いエネルギー分解能を持つ2次元検出器を導入し、高速性と高エネルギー分解性の両立をめざしてゆく。具体的には、エネルギー分解型2次元検出器Medipixを採用し、ビーム観察を進めてゆく。MedipixではSOPHIASの⊿E~2keV:FWHM)に対して、~1keVのエネルギー分解能が期待できる。Medipixにより実ビームの時系列的な重心移動の様子の計測、また加速器の電子ビーム位置モニターとの同時測定によるビーム診断系としての性能確認をすすめてゆく。 さらにより高いエネルギー分解能を有する理化学研究所開発のCITIUSの導入なども検討してゆく。CITIUSはSDDに肉薄するエネルギー分解能と高速性を有する2次元検出器であるが、本モニターシステムに導入するためにはそのデータ処理方法についての開発課題がある。しかしながら本システムの性能を飛躍的に向上させる可能性を持つものであり、是非とも検討する必要がある。 更に、昨年度に開発したフロントエンドスリット上流の広範囲放射パタン測定法③については、世界的にも従来観察されていなかったビーム形状情報の測定結果を含むものであるので、これについての論文発表を行う。
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Causes of Carryover |
研究計画も基づき、実験装置の開発費、ソフトウェアの開発等で研究費を執行し、年度末においてほぼ予定通りの執行を終え、少額の残があった。この額は研究に必要な物品等の調達には少ない額であり、次年度使用にするのが妥当と考えた。
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Research Products
(4 results)