2022 Fiscal Year Research-status Report
月惑星表面の水探索に向けた広いエネルギー帯に対応する小型中性子分光計の基礎開発
Project/Area Number |
22K12675
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Research Institution | National Institutes for Quantum Science and Technology |
Principal Investigator |
草野 広樹 国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構, 放射線医学研究所 計測・線量評価部, 研究員 (10547615)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 中性子検出器 / シンチレータ / パルス波形弁別 / 水分計測 / 月惑星探査 |
Outline of Annual Research Achievements |
月表層の水の存在量と分布は、惑星科学や宇宙資源の観点から注目されている。中性子分光は表層に含まれる水分量を推定する有力な手法であり、本研究では、熱中性子から高速中性子までの幅広いエネルギーに対応可能で宇宙機搭載リソースの小さな中性子分光計の開発を目的とする。 2022年度は、月面中性子環境のシミュレーション計算と検出器試作機の基礎特性評価を実施した。月面中性子環境は、銀河宇宙線による月面での中性子生成・輸送について、Geant4を利用して定量的に評価した。本研究により、漏出中性子が水の深さ分布の影響を受けること、漏出中性子計測により含水層の深さ・厚さを制約できる可能性があること、が示された。これは、ローバ探査のようにその場の局所的な条件に依存する場合に、水分量の定量精度の向上および利用可能性の評価のために特に重要である。 中性子検出器の基礎特性評価では、検出器応答のシミュレーション計算をもとに仕様を決定し試作機を製作した。シンチレータは、リチウムガラス(GS20)と波形弁別プラスチック(EJ-276D)を接合したホスウィッチ型とした。PMTとデジタイザで信号波形を取得し、発光減衰時間の違いを利用して粒子弁別を行った結果、GS20とEJ-276D、およびEJ-276Dの高速中性子とガンマ線を弁別できることを確認した。弁別性能の良さを表す性能指数は、電子等価エネルギー200 keV以上に対して、EJ-276Dの中性子とガンマ線が1.2以上、EJ-276DとGS20が2.1以上となり、十分な弁別性能が得られた。また、熱中性子遮蔽材(カドミウム)を利用することで、GS20により熱外中性子を計測できることを確認した。従って、熱・熱外中性子、高速中性子、ガンマ線を波形と熱中性子遮蔽により弁別して計測可能であることを実験的に実証した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
中性子分光に関連する数値シミュレータを構築し、シミュレーション計算の結果として、水の存在形状に対する漏出中性子の感度についての知見を得ることができた。中性子検出器は、試作機の特性評価により、計測の実現性を実験的に実証することができた。以上は、当初の研究計画の通りの進捗状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
中性子分光計の小型軽量化のため、シンチレータの光検出器としてSiPMを利用した中性子検出器を試作し、性能評価を実施する。SiPMは、小型軽量で動作電圧が低く、宇宙ローバ搭載に適した特徴を持つ。PMTの場合と信号波形の時間特性が異なることが予想されるため、信号読み出し回路の検討、波形弁別条件の最適化を行い、PMTの場合と同様に、熱・熱外中性子、高速中性子、ガンマ線の弁別計測が行えることを実証する。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由は、当初、本助成金で購入を予定していた信号処理回路について、別途調達済みの信号処理回路を改修することで同等の機能・性能が得られるようにして使用したためである。既存の装置の改修を本助成金で実施したため、差額を次年度に繰り越して使用する。次年度は、主にSiPMの信号処理回路の整備、中性子分光計試作機の製作費を中心に使用する計画である。
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