2023 Fiscal Year Research-status Report
体外循環補助装置の安心・安全な中長期使用を実現するための血球性状評価技術の開発
Project/Area Number |
22K12882
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
矢野 哲也 弘前大学, 理工学研究科, 准教授 (70404853)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 血球脆弱性 / 血球損傷 / 溶血 / 光学計測 / 体外循環装置 / 血液ポンプ / 血栓センサ / 機械学習 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,体外循環補助装置に搭載される血液ポンプおよびその構成要素の血液適合性評価に適用可能な血球性状評価法を確立することを目標としている.2023年度中に以下の成果を得た. 【血球脆弱性評価】本研究課題では,急速低張液曝露法と呼ぶ赤血球脆弱性評価法の開発を進めている.この手法は,赤血球分散液を低張液に分注することで,赤血球を低張環境に急速曝露し,膨潤,崩壊させ,そのときの赤血球分散液の光学特性の時間変化から,赤血球崩壊時間の分布を推定するものである.低張曝露された赤血球は,膨潤により赤血球は球形となり,内部のヘモグロビン濃度が徐々に低下し,崩壊により数密度が低下する.そこで,元の両凹円盤形の赤血球と等表面積の球としてミー散乱理論を適用し,赤血球内ヘモグロビン濃度および赤血球数密度を変化させた条件の下で,モンテカルロ法による光伝播シミュレーションを実行し,分散液の光学特性と赤血球内ヘモグロビン濃度,赤血球数密度の関係式を導出した.また,この関係式をもとに,実験で得られた透過光および散乱光の強度の変化から赤血球数密度の変化を算出し,赤血球の崩壊時間の分布すなわち脆弱性の分布を推定することが可能となった. 【血球脆弱性評価の自動化】急速低張液曝露法において,低張液への試料液注入を自動化する装置を製作した.体外循環装置による補助循環中の赤血球脆弱性の評価は,①循環回路からの採血,②試料液の調製,③光学計測の3つの工程で構成される.2022年度に工程①,2023年度に③の前半工程の自動化を完了した. 【ポンプ要素技術の開発】スパイラル状の溝構造を有する遠心型血液ポンプ用動圧スラスト軸受について,形状の異なる複数のモデルをコンピュータ上に構築し,数値流体解析により,溝断面形状が軸受発生力および軸受隙間流量に及ぼす影響を明らかにした.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
【血球脆弱性評価】低張液曝露による赤血球形態の変化過程を顕微鏡下で観察し,特に両凹円盤形状から球形になる膨潤過程を詳細に調べ,赤血球分散液の散乱光強度の変化に基づく膨潤過程の推定が可能となった.これにより,球形赤血球を仮定した光散乱シミュレーションの結果の適用可能範囲が明確になり,シミューレーションを援用した血球脆弱性分布推定の妥当性向上につながった.また,低張液曝露中の赤血球分散液の散乱光強度を異なる散乱角において同時計測し,それらのデータを統合することにより,血球脆弱性分布推定の精度向上を図ることが可能であることを示した. 【血球脆弱性評価の自動化】体外循環施行中の血球脆弱性評価の省力化のために,一連の工程の自動化を進めている.循環回路からの血液サンプリング,等張液による希釈(試料液の調製),低張液曝露,光計測,脆弱性評価のうち,血液サンプリングおよび低張液曝露工程の自動化を2023年度までに完了した. 【ポンプ要素技術の開発】スパイラル状の溝構造を有する遠心型血液ポンプ用動圧スラスト軸受の数値流体解析を行い,溝断面形状が軸受発生力および軸受隙間流量に及ぼす影響を明らかにし,血液適合性を考慮した改良設計のための有益な指針を得た. これらの成果は,体外循環補助装置の開発や安心・安全な中長期使用の実現に資するものである.以上より,本研究はおおむね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
【血球脆弱性評価】急速低張液曝露法による血球脆弱性評価の確立に向けた研究を推進する. 基礎・・・酸化剤添加が赤血球の膜骨格の構造を変化させ,膜剛性率を変化させることが先行研究で明らかにされている.本研究では,同様の化学的負荷を与えた赤血球の脆弱性分布を,急速低張液曝露法により評価し,膜剛性率の変化を検出可能か調べる.実際の酸化剤添加赤血球の膜骨格構造や膜面の局所の剛性率を測定することが理想的であるが,試料の前処理や測定にあたり多くのノウハウが必要であることから困難が予想される.そこで,ここでは,せん断流中での血球伸長度により変形能を測定する標準的な方法であるエクタサイトメトリと急速低張液曝露法の評価結果を比較することとする.なお,赤血球の力学特性と血球膜の微細構造の変化を,変形能の変化から推定可能であることは示されている. 応用・・・成人左心補助を想定した条件に加え,より低揚程および高揚程の条件で体外循環装置を使用したときの血球脆弱性分布の時間変化を調べ,それらの傾向の差異を明らかにする.このほか,体外循環施行中の血球脆弱性評価の省力化のために,循環回路からの血液サンプリング,等張液による希釈(試料液の調製),低張液曝露,光計測,損傷度評価の一連の処理を自動化するシステムを構築する.このうち,血液サンプリングおよび低張液追加工程の自動化を2023年度までに完了しており,2024年度は,残りの工程の自動化を進める.
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Causes of Carryover |
本研究課題で開発している急速低張液曝露法による血球性状評価の結果が,確実に赤血球の力学特性を反映したものであることを示すためには,赤血球膜の剛性率または変形能を測定し,それらと評価結果との間に直接的な相関関係があることを実験的に示す必要がある.当初はAFMを用いて膜剛性率を測定する予定であったが,測定の前処理を含め困難が多いことが2023年度中に判明したため,赤血球変形能と比較することとした.研究目的の達成のために計画を一部変更し, 2023年度にエクタサイトメータの設計を行い,2024年度に同装置の製作をすることとした.これに伴い,2023年度の研究費の一部を次年度に繰り越す必要が生じた.
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