2022 Fiscal Year Research-status Report
近代ドイツ哲学における自己意識理論の文化的・社会的側面に関する研究
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22K12955
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
嶺岸 佑亮 東北大学, 文学研究科, 助教 (50771143)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ヘーゲル / シラー / ゲーテ / カント / フィヒテ / 自己意識 / 美 / 自由 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の研究では、ヘーゲルの『精神現象学』に至るまでの自己意識理論について取り組んだ。特にゲーテ、シラーにおける人間形成の問題に重点を置いて研究を進めた。その具体的な成果は以下のとおりである。 (1)シラーの哲学的著作である、『優美と尊厳』、『カリアス書簡』、『人間の美的教育についての書簡』および『素朴文学と情感文学』を中心に、美と芸術が人間の自己形成に対して果たす役割について考察した。そうすることにより、カントの『道徳形而上学の基礎付け』と『実践理性批判』に示されるような、道徳的自立に基づく自由という思想がシラーの芸術観における根本理解を形作ることを明らかにした。またシラーがカントの自己理解とは異なり、美に対して独自の領域を認めることで、カントの『判断力批判』における美の役割をさらに積極的なものとしてとらえ返したことを明らかにした。この点については、シラーが完成と理性を従属関係においてではなく、相互作用のもとに理解していたことによることを解明した。 (2)シラーにおける美の理解の背景として、フィヒテの『全知識学の基礎』における自我の根本諸力の相互作用の思想について考察を行った。そうすることにより、フィヒテがもっぱら自発性を重視していたのに対し、シラーの場合、自発性と受容性が対等な関係にあり、相互に影響を与え合うとする独自の理解があることを明らかにした。 (3)シラーとゲーテとの間の往復書簡を検討し、シラーの哲学的著作の執筆気における思想的背景について考察を行った。そのことにより、古代ギリシアを範とすることで、美や人間形成の問題を先鋭的に理解しようとするという点で、両者は共通するものの、両者の間での自然理解が異なることを明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究では、当初の研究計画で予定していた研究をおおむね実施することができた。そのことに加え、シラーの理解の背景としてのカントやフィヒテの哲学にも踏み込んで研究を行うことができたため、美をめぐるシラーの哲学的思想の諸特徴を当初の見込みよりもより詳細に明らかにすることが可能となった。特に年度の前半は、新型コロナウィルスの世界的感染拡大の影響を受け、学会参加がオンラインに制限されるなどの事態はあったものの、本研究の遂行自体に影響を及ぼすことがなかったのが幸いした。本年度のシラーの研究については、研究代表者が編者の一人を務める、嶺岸佑亮・横地徳広・増山浩人・梶尾悠史編、『認識することに言葉はいるのか』(弘前大学出版会、2023年4月)の中に成果を盛り込むことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度については、当初の研究計画通り、ヘーゲルの『精神現象学』における自己意識理論について研究を行う。特に、同書の「精神」章における教養形成の問題に重点を置いて考察する。またこの研究について、論文として成果を公表するための準備を行う。さらに、『精神現象学』における自己意識の諸相についての研究を著書、『自己意識を哲学する――私が私であることとは』(ミネルヴァ書房、2023年夏公刊予定)として公刊するための準備を行う。
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Causes of Carryover |
次年度利用額が生じた利用としては、当初購入しようとしていた洋書がここ最近の円安により、当初の見積もりよりも値段が上がったため、本年度の残額では購入できなくなったためである。本年度で購入できなかったものについては、次年度に購入する予定である。
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