2022 Fiscal Year Research-status Report
コミュニケーションにおける暴力の分析:共同行為論の応用
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22K12960
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
三木 那由他 大阪大学, 大学院人文学研究科(人文学専攻、芸術学専攻、日本学専攻), 講師 (40727088)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | コミュニケーション / 共同行為 |
Outline of Annual Research Achievements |
コミュニケーションにおける特有の暴力のありかたを研究するために、本年度は共同行為における参加者間の力関係の影響を分析することを課題としていた。本年度の研究では以下のことを示すことができた。(1)共同行為はある参加者がその目的から逸脱したときには、他の参加者が非難を与え、もともとの目的へと引き戻すことで、一貫性を持って遂行される。(2)それゆえ、ある参加者の逸脱を他の参加者が非難せず、譲歩したときには、本来の目的からずれた共同行為へと変わりうる(そうした共同行為を「譲歩的共同行為」と呼ぶ)。(3)参加者間の力関係の不均衡は、逸脱のしやすさ、あるいは非難のしにくさの不均衡として共同行為に反映され、相対的に強い力を持つものは非難を受けることなく逸脱することが容易になるため、より自分の意に沿った形で共同行為を変化させることができる。 以上の成果は、査読付き国際ジャーナルJournal of Social Ontology, Vol. 8, No. 1にて論文"Concessive Joint Action: A New Concept in Theories of Joint Action"のかたちで公表された。当該論文は、本プロジェクト開始以前に投稿したものであるが、本年度を通じて査読への応答のかたちで本年度の研究成果を大きく組み込んでいる。ここでは、譲歩的共同行為という現象自体の存在を思考実験を通じて論証したうえで、それが参加者間の力関係の不均衡と関わっているという可能性について論じている。また、関連する議論を『哲学の探究』50号にて論文「共同行為のミニマリズム」でも公表している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度の研究自体は当初の研究計画にあった通りにおおむね進んでいると判断するが、他方でこのトピックの研究を続けるにあたって、当初想定していなかったいくつかの課題が見つかった。第一に、本研究で共同行為の分析に利用している共同的コミットメントという概念に関して、その同一性基準を明確にしなければ、共同行為の変化という現象を十分に捉えられない。第二に、共同行為への参加者の力関係の反映を捉えるために、より具体的に参加者が持ちうる力について検討し、それがなぜ他参加者からの非難を封じうるのかを論じる必要がある。それゆえ、これらの検討をしなければ、研究計画の次のステップには移れないと考えられるため、全体としては想定よりもやや遅れいてると認識している。
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Strategy for Future Research Activity |
共同的コミットメントの同一性基準の検討と、参加者の持ちうる力やそれが他者からの非難の封じ込めに寄与するさまの具体的な検討が必要となった。前者に関しては、コミットメントという概念に関する既存の哲学的研究を参照し、それを共同的コミットメントという特殊事例へと応用することで、共同的コミットメントの同一性基準の提唱を試みようと考えている。見込みとしては、共同的コミットメントがその形成時点における参加者の心理や合意といったすでに確定した事実に基づいて同一性基準が与えられると考えるのではなく、むしろ参加者が互いに非難を与えることなく一貫してともに行動することが共同的コミットメントの同一性基準に関わるというよりプラグマティックなアプローチが必要だということを打ち立てたい。これが達成されれば、第二の問題に関しても、いかなる条件で参加者は他参加者を非難できるのか、いかなる条件で他参加者からの非難を無視できるのかという観点から、具体的な検討をできるようになるだろう。
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Causes of Carryover |
旅費を確保していたがオンライン学会が続いて必要とならなかった。次年度の旅費や物品費に回したい。
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