2022 Fiscal Year Research-status Report
初期分析哲学史における実在論と観念論-対立構造の重層的理解に向けて
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22K12966
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
伊藤 遼 早稲田大学, 文学学術院, 准教授 (70853422)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 外部世界をめぐる論争 / 実在論と観念論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、申請書の計画に従い、20世紀初頭の英国における「外部世界」をめぐる論争を相異なる4つの対立軸での「実在論」と「観念論」のあいだの対立からなる重層的対立構造を持つものとして整理することを試みた。申請書段階では、「実在論」と「観念論」のあいだの対立軸は3つが想定されていたが、研究を進めるなかで、実際には当の論争には4つの対立軸が含まれることが明らかになった。またこれらの対立軸が成立する要因として、G. E. Moore による画期的論文 "The Refutation of Idealism"(1903) の公表があり、さらに、それに対する応答として、G. F. Stout による "Primary and Secondary Qualities"(1904) を位置付けられることを突き止めた。このことは、外部世界をめぐる論争の出発点は、先行研究が当の論争の出発点として同定してきたもの、すなわち、G. F. Stout の1904年の論文よりもさらに遡るものであること、そして、その出発点が従来、G.E. Moore や Bertrand Russell らの実在論と英国観念論の論争の出発点と考えられてきたもの、すなわち、G. E. Moore の1903年の論文と一致することを意味する。これらの発見は、学術雑誌『プロセス思想』において招待論文という形で公表されている。 また、本年度は、申請書の計画を少し前倒しする形で、同時期の Bertrand Russell の言語哲学において、外部世界をめぐる論争がどの程度関連するのかを明らかにするべく、1903年から1904年にかけて彼が残した草稿群を探索した。その成果は学術雑誌『哲学世界』において公表されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
外部世界をめぐる論争を理解するための「重層的対立構造」という考えの明確化という点や、当の論争と G.E. Moore や Bertrand Russell の当時の諸論考との関連の理解という点では、申請書の計画以上の進展があった。他方、当初申請書において予定していた、当の論争における T. P. Nunn や Samuel Alexander の位置付けの明確化という課題については、先行研究や当該年度に刊行された研究を超え出るような発見はできなかった。これらを踏まえると、本研究は、計画よりも大きく進展しているわけではないが、その進展は順調であると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、本年度の研究によって明らかとなった、外部世界をめぐる論争と G. E. Moore と Bertrand Russell と英国観念論のあいだの論争の結びつきを G. E. Moore の "sense data" 概念の起源を明らかにすることで、より詳しく検討する。これにより、申請書で当初予定していた、この二人の哲学者の外部世界をめぐる論争における位置付けを探るという次年度の課題に、本年度の成果を踏まえて、より具体的な形で取り組む。
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Causes of Carryover |
国際学会への参加も含めて、移動や対面での交流を伴う研究活動の大部分がオンラインによって行われたため。次年度以降は、そうした研究活動への制限が国内外で広く緩和され、また、研究集会は対面形式による開催が増えてゆく見通しであり、本年度生じた繰越分は主にそうした研究活動への支出へあてる。
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Research Products
(5 results)