2022 Fiscal Year Research-status Report
「二人称の他者」の現象学:その形成史と現代的意義の研究
Project/Area Number |
22K12968
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
鈴木 崇志 立命館大学, 文学部, 准教授 (30847819)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 現象学 / 他者論 / 倫理学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、〈「二人称の他者」の現象学の形成史を明らかにした上で、その現代的意義を示す〉という最終目的を達成するために、三年間の研究期間において、以下の三つの課題に順次取り組むという計画で進められている。 課題A:二人称の他者への「応答」概念を中心とした現象学的倫理学の形成史の解明 課題B:二人称の他者との「社会的関係」に着目した現象学的社会哲学の形成史の解明 課題C:「二人称の他者」の現象学の形成史の解明を踏まえた、その現代的意義の提示 研究の初年度にあたる2022年度は、課題Aへの取り組みがなされた。本年度においては、まず現象学の創始者であるエトムント・フッサールの倫理学の特徴が、価値論と共同体論の双方にわたって解明された。その成果は、フッサールの価値論の基礎を「享受」作用のうちに見いだす論文(「フッサールの価値論」、『立命館文学』680号)、およびフッサールの共同体論における「共同精神」の役割に着目した研究(「フッサールにおける共同精神と歴史的世界」、『立命館大学人文科学研究所紀要』132号)によって公開された。また本年度においては、フッサールから一線を画す独自の他者論を展開したエマニュエル・レヴィナスの倫理学構想に関する研究も公表した(「見ないことの倫理」、『視覚と間文化性』第十章)。そして以上の研究成果を踏まえ、現代の現象学的倫理学の全体像が、関西倫理学会シンポジウム「現象学と倫理学」において発表された。これらの研究によって解明された現象学的倫理学の特徴とは、「享受」というかたちで経験された価値に立脚すること、そしてその価値に沿った生に対する批判の契機が、一人称の私からだけでなく二人称の他者によっても与えられるということである。そのような二人称の他者への「応答」が倫理の生成変化において持つ意義を解明したことにより、本年度の研究課題が達成された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の最終目的は、「二人称の他者」の現象学の形成史を明らかにした上で、その現代的意義を示すことである。この目的の達成のためには、「二人称の他者」をめぐる問題が、現象学において、常に倫理学との関係において問われてきたことを考慮する必要がある。さらにそのような現象学的倫理学においては、一人称の「私」と二人称の「君」との差異や非対称性に重点が置かれてきたことに留意する必要がある。なぜなら、この点で現象学的倫理学は、対象的な諸個人のあいだで通用する規範を扱う一般的な倫理学とは異なる問題意識を持っているためである。本年度は、そのような現象学的倫理学の形成史をフッサール、レヴィナス、そして現代現象学という流れに沿って解明し、その成果が論文、学会発表、共著書籍などの多様な形態において公表された。こうした研究を通じて明らかになったのは、現象学的倫理学において主題となる二者間の呼びかけと応答の関係が、社会的関係の基礎にもなっているということであった。したがってこの関係を、次年度の課題である現象学的社会哲学の研究の手がかりとすることができる。 このように、次年度の研究との関連づけ、および最終目的の達成のための基盤づくりがなされたという意味で、本研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度に現象学的倫理学の形成史の解明がなされたことを踏まえ、2023年度においては〈二人称の他者との「社会的関係」に着目した現象学的社会哲学の形成史の解明〉という研究課題に取り組む。この課題においては、2022年度に解明された二人称の他者と一人称の私のあいだでの呼びかけと応答の関係を社会的関係の基礎として捉え直すことによって、それをもとにした社会哲学の展開をたどる。 この課題は、現象学の創始者フッサールの社会哲学を、彼が1920年代に日本の雑誌『改造』に寄稿した論文を手がかりとして再構成し、さらにそれをアルフレート・シュッツらの現象学的社会学と比較することによって行われる。さらに、こうした社会哲学の現代的意義を探るために、現代ドイツの現象学者ベルンハルト・ヴァルデンフェルスによる現象学的社会哲学の研究を行う予定である。これにより、倫理学と社会哲学の両面から「二人称の他者」の現象学の現代的意義を提示するという本研究の最終目的を達成するための道筋が描かれるだろう。 なお2023年度の研究は、『改造』論文に関連する国際会議への出席とそれに関わる論文投稿、現象学的社会哲学に関するシンポジウムの企画などを通じて公表される予定である。
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Causes of Carryover |
2022年度の研究に関連する書籍の購入額が予定よりも若干少なく、548円の残余が生じた。この残余分は、2023年度の研究の主題である現象学的社会哲学に関連する書籍の購入費に充てることを計画している。
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Research Products
(6 results)
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[Book] 視覚と間文化性2023
Author(s)
加國尚志、亀井大輔編著、鈴木崇志ほか著
Total Pages
342
Publisher
法政大学出版局
ISBN
978-4-588-15133-0
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