2023 Fiscal Year Research-status Report
インド密教流派形成史における「五次第」の受容と展開に関する包括的研究
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22K12970
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
松村 幸彦 東北大学, 文学研究科, 専門研究員 (70803071)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | アドヴァヤヴァジュラ / 生起次第 / マンダラ観想法 / ヘーヴァジュラ / 五次第 / サロールハヴァジュラ |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は前年度に引き続き、アドヴァヤヴァジュラ著『ヘーヴァジュラークヒヤ』のサンスクリット語テキストの再校訂を行いつつ、それと並行してその訳注作業を行った。そして、それらを用いて、同テキストを構成する五つの次第の内、第一次第に相当するkaayaviveka(身区別次第)の内容解析を行った。 「身区別次第」は生起次第に相当するマンダラ観想法が説かれており、その内容構成としては『ヘーヴァジュラタントラ』の成立に深く関わったともされる人物であるサロールハヴァジュラ(9世紀~10世紀頃)が著した成就法『ヘーヴァジュラサーダノーパーイカー』で説かれるものとほぼ同じ構成をとっていることが判明した。 一方で、さらなる精査が必要ではあるが、サロールハの説く成就法への註釈書という立場を採っておりヘーヴァジュラ系の儀礼綱要書のような性格を帯びている、スラタヴァジュラ著『ヴァジュラプラディーパー』とは似通った内容はあまりないように思われる。アドヴァヤヴァジュラの師の一人と目されるラトナーカラシャーンティの説く成就法『ブラマハラ』を構成する内容とも多くの相異が見られ、アドヴァヤヴァジュラが『ヘーヴァジュラークヒヤ』所説のマンダラ観想法を構成する上で、師であるラトナーカラシャーンティではなく、サロールハヴァジュラの説く成就法を参照元の一つとしていた可能性が考えられる。スラタヴァジュラ(9世紀後半~10世紀中頃/10世紀~11世紀前半頃)とアドヴァヤヴァジュラ(10世紀後半~11世紀中頃/11世紀前半~中頃)は活動年代が重なっていた可能性があり、それにも関わらずアドヴァヤヴァジュラが『ヴァジュラプラディーパー』について言及をしていなかったり、それに近い内容の構成があまり見られていないことは今後の研究において注意しなければならない点であるかと思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の予定では昨年度(2022年度)中に、研究対象の中心的なテキストである、ヘーヴァジュラ系五次第のひとつ、アドヴァヤヴァジュラ著『ヘーヴァジュラークヒヤ』のサンスクリット語テキストに関して、Dhiihで公開されたトランスリテレーションテキストを元にサンスクリット写本を用いた再校訂テキストとその訳注を完成させ、今年度ではその内容解析に注力する予定であったが、現在のところ同定されるチベット語訳がないこともあり、再校訂と訳注作業に細かい部分で多くの問題点があって、内容解析の着手に遅れが生じてしまった。また、その内容解析を進める上でも、究竟次第に相当する第二次第以降を解析するためには、生起次第に相当する第一次第の詳細な解析が必要であった。そして、その作業を進めるためには、アドヴァヤヴァジュラは多くの著作を残していることから、それらを含め他のヘーヴァジュラ系五次第などを比較参照する必要があり、詳細に検討すべき点が複数見つかったため、当初の計画より少々遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
『ヘーヴァジュラークヒヤ』のサンスクリット語再校訂テキストとその訳注作業は、現時点でも解決できていない箇処があるため、内容解析と並行して作業を進める必要がある。五次第の内、第一次第に相当する箇処は今年度(2023年度)においてある程度の解析を進めたが、第二次第以降に関しては未だ手つかずに部分が多い。しかし、他のヘーヴァジュラ系五次第『ヘーヴァジュラプラカーシャ』の各次第名と類似する部分もあるため、『ヘーヴァジュラークヒヤ』の内容解析を進める上で、そして再校訂と訳注作成に関して非常に有益な情報を多く含んでいる。そのため、第一次第の成果や他の五次第に関する先行研究を積極的に用いつつ、究竟次第(第二次第以降)に相当する観想法の解析を順次行っていく。
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Causes of Carryover |
予定では海外への調査旅行、および国際学会への発表、国内学会での複数の発表を予定していたが、研究の進捗状況の遅れや海外まで調査に向かう日程の調整が難しかったことから予定よりも使用額が少なくなってしまった。その他にも十分に物品を購入できなかったことも影響している。そのため、次年度は今年度よりも調査旅行へ向かう回数を増やすなどして研究の進捗がはかどるように計画していきたい。また、最近、研究に使用しているPCの調子が芳しくないこともあり、新しいPCを購入するなどして研究環境を整えるために物品費も計画的に使用していくつもりである。
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