2023 Fiscal Year Research-status Report
The editorial study of the Abhidharmakozakarika In the Potala Palace manuscript
Project/Area Number |
22K12974
|
Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
田中 裕成 佛教大学, 仏教学部, 講師 (50912408)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
|
Keywords | アビダルマ / 五事論 / 敦煌写本 / ゴーンドラ写本 / 梵文写本 / 倶舎論 / 法成 / ポタラ宮倶舎頌 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではポタラ宮より新出した倶舎頌写本の諸本対照テキストの制作を目標に研究を行っている。 本年度は対照テキスト制作の基礎研究として、昨年度に引き続き、テキスト整理と翻訳、関係する写本の蒐集や研究の収集に着手した。本年度の研究によって得られた成果は主に二点である。 第一に、テキスト整理による成果が田中[2024]である。田中[2024]では、AKK VI. 1及びその注釈に焦点を絞り、『倶舎頌』が『顕宗論頌』にて訂正された原因を追求した。結果、AKK VI. 1は『雑心頌』をしなかった偈頌であり、世親が独自に文脈の整理を行った箇所であることが明らかとなった。その結果、他の箇所で述べている内容と重複したり、異なる法相を組み合わせてしまい、偈頌に法相的な誤りが含まれるに至ったことが明らかとなった。このことから、『倶舎頌』の訂正箇所には、思想的対立に由来するものと、思想的な誤りに由来するものの二通りの訂正理由があることが明らかとなった。 第二に、諸本の収集作業の際に、蔵訳ゴーンドラ写本に、敦煌写本の法成訳『五事論』の翻訳元となった『蔵訳五事論』があることを新たに発見し、田中[2023]として同定内容を報告した。従来、法成訳『五事論』は梵文からの翻訳であるとの見解が一般的となっていたが、今回の発見では、法成訳と逐語的に対応し、さらには脱字箇所まで共有していることが明らかとなった。蔵訳のコロフォンではイェーシェーデとジナミトラが翻訳したとあり、当該文献が梵文からの蔵訳であることは明確であったため、法成訳の五事論が蔵訳からの漢訳であることが明らかとなった。また、本発見により、蔵訳ゴーンドラ写本群と敦煌写本の間に密接な関係があることが新たに明らかとなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本年度は『ポタラ宮倶舎頌』以外の『倶舎頌』写本の校訂と検証を予定していた。以前に制作した『倶舎頌』諸本対照本と試訳にもとづき、『ポタラ宮倶舎頌』の校訂作業を行っているが、当初の計画よりも作業は難航している。 主な理由としては二点である。第一に、研究に際して当初予見されていなかった『蔵訳五事論』の発見があった。本資料は重要な資料であったため、全体像の確認と公表に時間を割いた。その結果、『蔵訳五事論』のおおよその情報は明らかとなったが、『ポタラ宮倶舎頌』の諸本対照研究に遅れが生じた。 第二に、Gokhale本やPradhan本が用いた写本を、当初は、問題のある箇所のみの確認を予定していたが、より緻密な研究を目指し、全体の再検証する方針に予定を変更した。当初は、Gokhale本の内容はそのまま使用することができると予見していたが、実際再検証を行うと、いくつかの不備が確認され、検証することなく依用することに問題があると考えるに至った。そこで、当初の予定を改め、丁寧に梵文写本の再検証を行う方針に変更した。結果、当該作業において、遅れが生じている。
|
Strategy for Future Research Activity |
次年度は漢訳や蔵訳の諸本の異読収集に費やす予定であったが、一旦取りやめ、今年度に引き続き、Gokhale本が用いた写本の再検証を行う。 梵文の異読や誤り等の情報を丁寧に収集し、今後の研究で依據することのできる資料の制作を目指す。 一方で、漢訳や蔵訳に関しては当初は網羅的な検討を意図していたが、こちらの確認範囲を減らすことによって、Gokhale本が用いた写本の再検証を行う時間を確保し、梵文情報の精度向上を目指す。
|
Causes of Carryover |
当初は写本の編集作業を行う人件費を予定していたが、諸般の事情で今年度は自身で作業を行った。そのため、人件費や謝金が発生せず、次年度に購入予定であった研究書籍などを今年度の予算で購入した。
|