2023 Fiscal Year Research-status Report
Bhaisajyaguru and Amitabha: A Comparative Study of the Development of Pure Land Buddhism in India
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22K12975
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Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
吹田 隆徳 大谷大学, 文学部, 助教 (70910751)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 般舟三昧経 / 竺法護 / 仏随念 / 念仏 / 阿含経典 / 三啓集 / 梵文写本 / 如来十号 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は阿弥陀仏に言及する現存最古の大乗経典『般舟三昧経』の分析と、仏随念(念仏)を説く新出梵文阿含経の分析を行った。以下、それらの成果を二段落に分けて順次に報告する。 伝承によれば、竺佛朔と支婁迦讖を代表とする訳経チームが、洛陽で179年に訳出したのが『般舟三昧経』(T418)である。現存するT418と諸経録の記載を照らし合わせてみると、巻数(三巻)が一致するのは『開元録』(730年)からであり、これ以前の経録(一/二巻)とは一致しない。したがって、T418にはいくつかの発達史的段階があったことが予想されるが、異本対照によって、その段階の一部を垣間見ることができる。これまでの研究によって、高麗版の散文調の偈文が支婁迦讖たちの訳であり、三版(宋元明)は別な人物の訳であることが指摘されているが、その別な人物が誰かは未同定のままとなっている。今年度は主に第三章「四事品」における偈文の分析に基づいて、その別な人物というのが竺法護であり、竺法護を念頭に置いて再検証する必要性を提示した。 近年めざましい成果を挙げている三啓集の写本研究により、現存するニカーヤや阿含に対応のない、仏随念を説く梵文阿含経典が発見された。仏随念は六随念や十随念の枠内で説かれることが多く、単体で説かれることが少ないため、研究資料として大変貴重である。この度、松田和信教授(現佛教大学名誉教授)のご厚意により、写本を閲読する機会を得、上野牧生准教授(大谷大学)と共同で研究を行い、梵文テキストと現代語訳を公開した。さらに、この経典の分析により、如来の称号(通称:如来十号)の数に見られる南伝と北伝との違いが、古い韻律の有無に基づいて起こった可能性を指摘した。また、それら称号を頭の中で反芻することにより、ブッダの信頼性を確認するという一つの仏随念のあり方を明らかにした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
『般舟三昧経』は179年という訳出年代の早さからも理解できるように、インドにおける初期浄土教の様相を知る上で重要な文献である。ただ、後代の増広や編纂を経ているという問題のあることも事実であり、正しい解釈のために文献批判が必須である。この点について、これまでの研究がかなりの成果をあげていたが、今年度の研究成果により、竺法護訳の偈文が組み込まれている可能性が指摘され、現存『般舟三昧経』(T418)の発達史全体がより一層明白になる見通しがついた。 仏随念にかんして、これは特に阿弥陀信仰を取り扱う際に重要となる項目であるが、その原始的な部分については様々に論じられているものの、六随念や十随念の枠内で説かれる仏随念が主な対象であるため、単体で説かれる場合にどのような意義をもつのかが明白ではなかった。今回の新出梵文阿含の分析により、師とその教えが正統なものであると認識するために行うという仏随念の一形態が明らかになった。これにより、今後の仏随念の研究にかんする指標を得ることとなった。 以上の点に鑑みると、本研究はおおむね順調に進展していると評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き『般舟三昧経』の偈文の分析を続ける。これにより、竺法護に馴染みのある訳語が今後も抽出されるだろう。一方で、まったく馴染みのない部分が発見されるような場合には、より後代に編纂された層が存在するということになる。特に三版に見る経典の冒頭部と、第二章「行品」の偈文にかんしてはこれを疑うべきである。今後はこれらの点について明白にする必要がある。 今年度の研究によって仏随念の一形態が明確になったことにより、これを指標として他のニカーヤや阿含に見当たるものがないか調査する必要がある。現在、如来が数々の称号を得た(=信頼に足る)人物であると理解するという内容が、仏随念の原初形態に迫る可能性が高いと見ており、今後、この点を明らかにしていく必要がある。その際には、仏随念とまったく同じ定型句で説かれる信(シュラッダー)との関係も視野に入れて調査を行わなければならない。 そして、今年度は研究成果として表に出ていないが、継続中の『悲華経』の輪読を今後も続けていく。アラネーミン王(阿弥陀仏の前身)の息子たちが立てた、さまざまな誓願の内容について近々公開する予定である。
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