2022 Fiscal Year Research-status Report
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22K12980
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
坪光 生雄 一橋大学, 大学院社会学研究科, 研究補助員 (10876254)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | ポスト世俗 / 世俗主義 / 世俗化 / 宗教概念 / 翻訳論 / チャールズ・テイラー / ジュディス・バトラー / タラル・アサド |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、「ポスト世俗(postsecular)」という標語のもとに捉えられる今日の思想潮流のうちに、「宗教言語論」の新しい展開を見出し、この思潮が宗教研究、ひいては広く人文社会科学の文脈においてもつ意義と内実とを明らかにすることを目的としている。近代の世俗主義的体制を批判的に問い直すこの「ポスト世俗的」な思潮において、宗教的言語の「翻訳」ないし「普遍化」というアイデアに関する言語論的考察は中心的な重要性を帯びている。本研究は、この宗教言語をめぐる一群の思想を検討対象とし、そこで「宗教」と「世俗」とを分かつ従来の概念的境界がいかに争われ、また再設定されるのか、その動態を検証するものである。 初年度にあたる2022年度、本研究は大きくは次の2つの成果を得た。 ①チャールズ・テイラーの宗教論に関する単著(坪光生雄『受肉と交わり:チャールズ・テイラーの宗教論』)の刊行。本書は、宗教学的観点からチャールズ・テイラーのカトリック思想を主題的に論じたものである。とりわけ本研究課題との関連では、テイラーの思想の「ポスト世俗性」を、とりわけ彼の言語論との関わりで明らかにした章が重要である。そこでは、深く神秘的な詩的-宗教的言語が、なお「共鳴」によって普遍性を志向するあり方について考察された。 ②タラル・アサドとジュディス・バトラーにおける「翻訳」および「普遍性」の問題を扱った論文の刊行(坪光生雄「普遍主義のポスト世俗的な条件:宗教の翻訳について」)。本論文は、宗教伝統の翻訳不可能性を強調するアサドの宗教概念批判を、バトラーの批判理論の観点から読み直すことを通じて、「宗教概念批判」の主題に取り組むものである。翻訳がもたらす脱文脈化の作用によって、言葉の元々の同一性が撹乱されるが、本論文では、こうした翻訳=脱文脈化を、今日における普遍主義の「ポスト世俗的」な条件として捉える観点を明確化した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
報告者の長年の課題であったチャールズ・テイラーの宗教論についての研究成果を、単著として公刊することができた。なおその際に、本研究課題に固有の意義をもつ論点(言語論および「ポスト世俗」の概念論)について、さらに考察を深めることができた。 また、本研究課題が方法論的に立脚すべき「ポスト世俗性」の規定を、ジュディス・バトラーおよびタラル・アサドの翻訳論の検討から明らかにし、研究論文として刊行することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、検討対象とするテクストをいっそう拡充させ、「ポスト世俗性」のより多面的な相貌を捉えることを試みる。また「ポスト世俗」の思想それ自体を、「ポストヒューマン」として捉えられた、現代のより大きな思潮のなかに位置づけ、さらに拡散的なその思想的意義の測定を行う。
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Causes of Carryover |
計画では遠隔地で開かれる学会への参加のために旅費を計上していたが、それらの学会がオンライン開催となり、旅費を支出する必要がなくなったため、次年度使用額が生じた。 次年度使用額については、文献及び資料の購入(物品費)を主たる用途として使用する予定である。
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Research Products
(2 results)