2022 Fiscal Year Research-status Report
キリスト教形成期における「他者」の実態:共生の地盤としての異邦人
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22K12986
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Research Institution | Kobe College |
Principal Investigator |
大澤 香 神戸女学院大学, 文学部, 准教授 (10755424)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 異邦人 / パウロ / 律法 / 自然法 / 隣人愛 |
Outline of Annual Research Achievements |
キリスト教形成時期の「他者/異邦人」概念の実態を明らかにすることを目的とする本研究課題の1年目である2022年度は、先立つ研究課題「アイデンティティと『穢れ』:原始キリスト教会形成プロセスにおける『他者』の受容」(課題番号:19K12963)を発展的に継承する研究内容に取り組んだ。「ユダヤ人」と二項対立的に位置づけられる「異邦人」概念がパウロによってもたらされたと主張するAdi Ophir とIshay Rosen-Zvi による近年の議論(Goy: Israel’s Multiple Others and the Birth of the Gentile, OxfordUniversity Press, 2018, 1-178)を検討することから始めた。 キリスト教における他者受容の内的構造の解明を目指す本研究にとって、キリスト教における「異邦人の受容」が、単なる経過的事実ではなく、認識の転換を伴う積極的受容であった可能性を示唆するOphir とRosen-Zviの議論は、まず検討を要するものであった。Ophir とRosen-Zvi の議論をパウロの律法観の考察に応用する分析を行なった。特に、隣人愛へのパウロの強調に注目し、パウロが「律法」概念についても、イエス・キリストにある新しい共同体形成のために、先行する概念を用いつつ新たな概念を構築していることを分析した。その研究成果を、「初期キリスト教における異邦人受容について -新しい共同体形成のためのパウロによる概念構築の考察-」と題して、学術大会において口頭発表し、口頭発表後の議論を踏まえて加筆修正し、論文として発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
Ophir とRosen-Zviによる議論を詳細に検討し、ヘブライ語聖書における他者概念の多様性と「異邦人」概念の成立段階について考察した。キリスト教が受容した「異邦人」が、ユダヤ教によって「排除された他者」というよりむしろ、「受容するための他者」として積極的に位置づけられた「新しい他者」であった可能性が浮かび上がり、その視点から、パウロの律法に関する言説について、第二神殿時代ユダヤ教の自然法概念との対話を跡付けつつ新しい視点から論じた。予定していた研究計画が順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
パウロによって「包括」を志向して構築されたユダヤ人と異邦人の二項対立概念が、後にはキリスト教徒と異教徒間の 排他的区別に利用されていった可能性が示唆されており、今後、パウロ以降のキリスト教における他者概念の詳細について考察を進め、キリスト教における他者受容の内的構造の解明を目指す。具体的には、原始キリスト教のアイデンティティ形成において、パウロの他者概念がいかなる影響を与えたのかについて、新約聖書の成立背景と共に分析する。
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Causes of Carryover |
研究内容の順序の都合上、一部計画を調整し、設備備品の購入等を次年度以降に変更した。次年度以降の研究過程での適切な段階で使用する。
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