2023 Fiscal Year Research-status Report
キリスト教形成期における「他者」の実態:共生の地盤としての異邦人
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22K12986
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Research Institution | Kobe College |
Principal Investigator |
大澤 香 神戸女学院大学, 文学部, 准教授 (10755424)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 異民族 / 創造 / 自然 / 隣人愛 / 法 |
Outline of Annual Research Achievements |
キリスト教形成時期の「他者/異邦人」概念の実態を明らかにすることを目的とする本研究の2年目である2023年度は、ヘブライ語聖書および第二神殿時代ユダヤ教文書の中に見られる自然界と人間との対比的描写に注目し、その対比的二者のどちらに自分達を位置付けているかという点で対照的な二つのテキストを比較した。一つはヘブライ語聖書中のエズラ記であり、もう一つはヨナ書である。その描写方法の分析から、ヨナ書が、ユダヤ人の排他的民族主義への批判と、異邦人にも及ぶ神の普遍的救いを述べているという特徴も確認することができた。さらにその分析結果を用いながら、エコロジカル聖書解釈の視点によってヨナ書を解釈することを試みた。自分と他者とを境界づけ、脱落者を排除するための「法」ではなく、「すべてのものが安寧に生きるために必要な秩序」としての「法」理解は、律法全体が隣人愛の掟において全うされると語るパウロの法理解とも方向性を同じくするものであることを確認した。また他者のために仕える神の姿が、ユダヤ思想の中にも、また新約聖書に記されたキリストの自己無化の姿の中にもあることを指摘した。これらの研究成果を国際会議において口頭発表し、論文としてまとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第二神殿時代ユダヤ教における他者/異民族への視点を、自然と人間の対比的描写に注目して分析・考察した。その描写方法の違いに、各文書を記した人々の立場の違いやテキストの方向性が表れていることを明らかにすることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
パウロ以降のキリスト教における他者概念の詳細についての考察を進める。原始キリスト教のアイデンティティ形成において、パウロの他者概念がいかなる影響を与えたのかについて、新約聖書の成立背景と共に分析する。
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Causes of Carryover |
研究内容の順序の都合上、一部計画を調整した。次年度以降の研究過程の適切な段階において使用する。
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