2022 Fiscal Year Research-status Report
「悪」の統治実践と人間観をめぐる近現代日本の思想史的研究―監獄教誨・死刑・宗教―
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22K12987
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
繁田 真爾 東北大学, 国際文化研究科, GSICSフェロー (00862004)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 監獄教誨 / 教誨師 / 悪 / 統治 / 浄土真宗 / 感化 / 懲戒 / スピリチュアルケア |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、「近代日本における「監獄教誨」の歴史と思想史」の探究を課題として、①史料収集・現地調査、②研究成果発表(A論文執筆、B学会発表)を中心に研究活動を行なった。また、③同課題と深く関連する最新の研究成果について書評を発表し、④学会外へのアウトリーチ活動にも積極的に取り組んだ。 ①では、国会図書館や矯正図書館等において関係史料の調査および収集を実施した。 ②Aについては、論文「「感化」と「懲戒」の監獄史」を発表し、近代日本の「監獄」制度とその研究史を概観しながら、日本における監獄史の特徴と、その中に「監獄教誨」がどのように位置づけられるか考察した。 ②Bについては、第5回チャプレン研究会(上智大学)において、「歴史から考える近現代日本の宗教教誨」と題する講演を行なった。近現代日本の「監獄教誨」史全体を概観した上で、その現代的意義や可能性、そしてこれまで欧米の刑務所で行なわれてきた「スピリチュアルケア」との相違等について考察を試みた。 ③については、本研究課題と深く関わる最新の研究として、(1)石井公成(監修)・近藤俊太郎・名和達宣(編)『近代の仏教思想と日本主義』(法藏館、2020年)、(2)近藤俊太郎『親鸞とマルクス主義:闘争・イデオロギー・普遍性』(法藏館、2021年)の書評を執筆した。国家と仏教との関係、そして教誨師の実践にも論及した両著を詳細に批評することで、本研究の立場や意義について考察を深めることができた。 ④については、(1)真宗大谷派の機関誌への寄稿を通じて、明治期の「監獄教誨」史の解説・紹介と、現代日本社会への発言を試みた(「真宗教誨150年の歴史を振り返る」(第1・2回)、「戦争の時代を「悪」からみつめる」)。(2)中学2年生を対象とする講演「「罰」から考える私たちの社会」では、これまでの研究成果を次世代にできるだけ分かりやすく伝える貴重な機会を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は、一次史料の収集と現地調査を計画どおり実施し、研究課題にかかわる研究論文の執筆と学会発表、書評の発表やアウトリーチ活動を行うことができたので、研究は現時点でおおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、近代日本における「監獄教誨」の歴史過程を明らかにすることが主な研究課題であった。次年度も教誨制度を支えた主要な教誨師の基礎研究を進めつつ、さらに近現代日本における「死刑」とそれをめぐる思想史の研究に取り組みたい。 具体的には、明治期から昭和戦前期における「死刑存廃論争」の展開について、研究するところから着手したい。とくに本研究の問題関心からは、死刑制度に深く関与してきた死刑囚教誨師たちのケーススタディから同課題に取り組むことで、研究の新しい視座を拓いていくことが可能だと考える。 以上の研究によって得られた成果は、学会発表や論文執筆等を通じて、積極的に発信していきたい。
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Causes of Carryover |
史料調査の一部予定変更に伴って、旅費に関する部分で次年度使用額が生じた。 当該助成金は当初の計画どおり、史料調査のための旅費として次年度に使用する。
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