2022 Fiscal Year Research-status Report
メディア考古学:イエズス会・カステル神父の「視覚クラヴサン」を例として
Project/Area Number |
22K13003
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
寺尾 佳子 立命館大学, 文学部, 授業担当講師 (10896236)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | イエズス会 / カステル神父 / 国際情報網 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、イエズス会のルイ=ベルトラン・カステル神父(1688-1757)の著述を、イエズス会の国際情報網との関連で捉え直すことで、近代・啓蒙・科学的普遍知とイエズス会的普遍知とのせめぎ合いを浮かび上がらせるものである。従来のカステル研究は思想や科学、芸術等の学問領域の枠内でカステルの取り組みを捉える傾向にあり、神父が所属していたイエズス会の背景に照らし合わせて研究することは稀であった。その理由にはカステルの科学的分野での学説のみが知られていること、カステルが18世紀研究でさほど重視されていないこと等が挙げられる。本研究は、当時のイエズス会がアメリカ大陸や中国を含む全世界に情報網を張り巡らせていた事実に注目し、またカステルがその国際情報網にジャーナリストとして関わっており、啓蒙期の西欧に影響力を持っていた事実を明らかにすることで、カステルの営みをイエズス会のバックグラウンドに照らし合わせて包括的に研究することを試みている。 今年度はカステルがイエズス会系定期刊行物『トレヴー誌』のなかで担当した書評、とくにイエズス会宣教師ジョゼフ=フランソワ・ラフィトーの著作『アメリカ未開民族と古代の風俗比較』(1724)の書評に焦点を当てた。ラフィトーの著作が当時のイエズス会の課題にどのように応答するものであったのか、また啓蒙期のフランスで、カステルがこのラフィトーの著作を書評の中でいかに紹介しているのかについて、一次文献と二次文献の検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
令和4年度は、まず一次文献であるラフィトーの著作『アメリカ未開民族と古代の風俗比較』(1724)とそれについてのカステルの『トレヴー誌』(1724年9月、11月、1725年2月)における書評を読むことから始め、そのなかで得られた知見をもとに、ラフィトーの著作や当時のイエズス会に関する二次文献にあたって研究を進めた。主に以下の点を中心に分析した。a. 聖書に記述されていない「新大陸」の住人をいかに説明するか。b. これについてのイエズス会の態度。c. このイエズス会の立場における宣教師ラフィトーの『アメリカ未開民族』の位置づけ。d. ラフィトーの著作をカステルがジャーナリストとして啓蒙期の西欧にいかに紹介したか。 以上のように研究を進めることができたが、今年度の成果をまとめる作業が遅れており、令和5年度のはじめにその作業に取り組む予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
令和5年度は4年度に得られた成果を論文の形にまとめる作業に加え、カステルが『トレヴー誌』の中で担当したその他のイエズス会宣教師報告に関する著作の書評を読み進めていく。中国についてまとめたイエズス会士ジャン=バティスト・デュ・アルドの著作『シナ帝国全誌』(1735)について、カステルが書いた書評に焦点を当てる。デュ・アルドのこの著作を当時のイエズス会の背景に位置づけるとともに、それをカステルが『トレヴー誌』の中でいかに紹介しているのかを明らかにする。一次文献であるデュ・アルドの著作とそれについてのカステルの書評を分析しつつ、並行してデュ・アルドやイエズス会に関する二次文献にもあたりながら研究を進める予定である。
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Causes of Carryover |
令和4年度春に計画していた在外研究を行うことができず、現地での資料・情報収集も行うことができなかったため、次年度使用額が生じた。令和5年度には、特に夏と春に研究時間をしっかり確保して在外研究を充実させる。その中では、パリやリヨン、ブリュッセルの図書館でのイエズス会とカステル関連の資料収集に加え、カナダの科学史の研究者やフランスの18世紀文化の専門家との情報交換も積極的に行い、成果に結びつけられる形で研究を遂行する予定である。
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