2023 Fiscal Year Research-status Report
19、20世紀におけるルリユールの国際的展開:工芸製本家の書物観と製本技術の継承
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22K13006
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野村 悠里 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 准教授 (70770288)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ルリユール / 工芸製本家 / 書物観 / 師弟 / 製本技術書 / 出版文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
19世紀後半になると、機械化によって素材やデザイン性に富んだ量産本が普及し、伝統的な工芸製本の制作を担う後継者は徐々に少なくなっていった。さらに19世紀後半から20世紀初めは、過去に制作された作品の劣化が問題になった時代であり、各国の工芸家による装幀材料や技法の選択にも影響が及んでいる。本研究では出版文化の変容を踏まえつつ、工芸製本家がどのように伝統的な技術を受け継ぎ、それまでの製本構造や装飾技法に改良を加えていったのかを分析することを目的としている。第二年度は工芸製本家の残した著作物と資料群から、多方面に展開した製本史観ならびに書物観を読み解くことに重点を置いた。初年度において、19世紀後半から20世紀後半の技術書、製本学校の講義録、各機関における著作物やアーカイブの調査を行ったが、資料が複層的に連動していることがわかった。そのため第二年度においても継続し、関連する装幀批評や新聞記事をはじめ、作品展示の写真記録、書簡類などの資料収集に努めた。収集した資料が膨大となったため、工芸製本家と何世代かの師弟に分析対象を絞ることを検討し、現在はアーツ・アンド・クラフツの国際的展開を軸にした長期的な技術の継承過程を追っている。この分析自体は、フランス、ドイツ、イギリスをはじめとする西欧諸国の製本技術書の所蔵館を一覧にしたG.ポラードによる書誌学的研究を発展させるものである。19世紀以降の製本家の技術書は、18世紀に出版された啓蒙思想家による技芸書や事典類とは別の視点で執筆されており、過去の世紀における製本史観、とりわけフランスの製本史や技法に触れていることが大きな特徴である。著作物には、製本工芸家ならではの視点、身体的動作や道具の記述が含まれるため、読解自体が難解な作業となっているが、実物の製本作品やコレクションと比較しながら研究を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第二年度は計画当初には予定していなかった装幀批評や工芸製本家の書簡類などを収集できた。作品の展示写真は当時の手工芸製本が置かれた状況を分析するためにも重要で、今後の研究を進捗させるものと考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
引きつづき、工芸製本の技法がどのように変容していったのかについて分析を行う。とりわけ、アーツ・アンド・クラフツの国際的展開を軸にした書物観の造成、保存修復の萌芽、師弟関係に着眼した技術の継承過程を明らかにしたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用分がわずかに生じたが、予定した納品が次年度の4月になったためである。計画的な執行に引きつづき務めたい。
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