2022 Fiscal Year Research-status Report
17世紀イタリアにおける共同制作絵画に関する包括的研究
Project/Area Number |
22K13011
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Research Institution | Kobe Gakuin University |
Principal Investigator |
倉持 充希 神戸学院大学, 人文学部, 講師 (60845303)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 共同制作 / 17世紀イタリア / 専門画家 / 人物画家 / 美術の南北交流 / 北方画家 / 静物画 / 風景画 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、17世紀イタリアで行われた共同制作に関する調査を行う。具体的な研究方法としては、①主要作例の本格的な作品研究(2022~24年度)、②関連作例の収集と分類(2023~24年度)、③制作環境を踏まえた全体の傾向分析(2022~24年度)を実施する。以下、2022年度の実績を記す。 ①主要作例の本格的な作品研究:申請以前から行ってきた予備調査の成果を踏まえ、個別の作品研究を行うべき主要作例のリストアップと基本情報の整理を進めた。具体的には、イギリスでの調査の準備として、ローマを拠点に活動した風景の専門画家ガスパール・デュゲ(ローマ生まれのフランス系画家)と、人物画家カルロ・マラッティ(イタリア出身)による共同制作などに関する情報を整理した。また、イタリアでの調査の準備として、上記の風景画家デュゲと人物画家ギヨーム・クルトワ(イタリアで活動したフランス人画家)による共同制作などに関する情報を整理した。その結果、同じ専門画家と人物画家が繰り返し共同制作を行った事例や、画家同士がルーツを同じくするといった点が確認できた。このような傾向は、共同制作に携わった画家間の人間関係を考察するうえで、重要な観点となる。 ③制作環境を踏まえた全体の傾向分析:本研究では、共同制作の主要作例や関連作例を相互に関連付けて、より広い文脈で全体像を把握する。2022年度は、16世紀末から17世紀に北方出身の専門画家が活動したローマおよびミラノについて、有力なパトロンの芸術庇護に関する情報収集を行った。その結果、ミラノのパトロンの庇護を受けた北方画家の作例がローマでも愛好されたことなどが確認でき、今後、芸術家や作品の移動、趣味の伝播などについて検討する端緒を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2022年度中に実施予定であったイギリスおよびイタリアでの現地調査を延期したこと、洋書の購入計画に変更が生じたことなどによる。 ①主要作例の本格的な作品研究:共同制作研究では、専門画家と人物画家の制作順序を確認するため、絵画の実物を丁寧に観察する作業が必要である。さらに、作品を所蔵する美術館等の資料室に保管されているX線写真や来歴に関する調査資料も、構想過程や注文状況を解明するのに有効な資料として閲覧する必要がある。2022年度中は現地調査はできなかったものの、主要作例のリストアップと基本情報の収集を進め、今後さらなる調査が必要な事項を整理した。また、2022年度の進捗を踏まえ、次年度以降の現地調査先の優先順位や渡航計画を再検討している。 ③制作環境を踏まえた全体の傾向分析:2022年度中は、共同制作が行われたローマおよびミラノにおける芸術庇護に関する文献調査を進めた。現地調査はできなかったものの、北方の専門画家が描いた絵画を数多く所有するミラノのアンブロジアーナ美術館のカタログ等を入手し、イタリアにおける北方絵画愛好を促したと思われる作例を収集している。また、イタリアに先駆けて発展したネーデルラントの共同制作に関する専門書を参照することで、創造的な共同制作の在り方に対する理解を深め、北方の共同制作がイタリア美術に刺激を与えた可能性について探っている。
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Strategy for Future Research Activity |
現地調査については、次年度6月の時点で調査が可能かどうかを判断し、渡航が可能な場合、繰り越し予算を渡航費用に充てる。 ①主要作例の本格的な作品研究:共同制作の作品を所蔵する美術館にて、絵画の分析および資料室に保管されているX線写真や来歴に関する調査資料の閲覧を行う。作品が個人邸に所蔵される場合は、所有者にアポイントメントを取り、作品の観察を行う。具体的には、8~9月にローマ・ミラノ、翌年2~3月にロンドン・チャッツワース・ブライトン、8~9月にマドリード・パリ、翌年2月にローマ・ナポリにて調査を予定している。次年度中の渡航が難しい場合、文献調査に基づき、作品研究の論文執筆を進める。 ②関連作例の収集と分類:美術館等で関連作例を実見するほか、ローマのヘルツィアーナ図書館には、美術史の専門書やカタログ、写真資料が多数所蔵されるため、現地調査中にそれらの二次資料を閲覧し、関連作例に関する情報を収集する。次年度中の渡航が難しい場合、これまでの調査で共同制作に携わったことが判明している芸術家や顧客に関する研究書を購入し、人的ネットワークの整理を進める。現時点での課題として、写真資料や実物の観察からでは、作品を手掛けた画家を同定することが困難だと思われる作例が見つかっている。この帰属の問題に関しては、複数の二次資料(カタログや研究論文など)を比較検討しつつ、注文状況に関する一次資料(目録や書簡など)による裏付けが得られる作例を優先的に収集することで対応する。 ③制作環境を踏まえた全体の傾向分析:ローマおよびミラノの図書館等で、制作環境や芸術庇護に関する資料の収集・閲覧を行う。次年度中の渡航が難しい場合、引き続き、関連する研究書を購入し、有力な顧客を中心とする知的サークルの範囲を踏まえた作例の分布図を作成する。
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Causes of Carryover |
当初の計画では、2022年8~9月にロンドン・チャッツワース・ブライトン、2023年2~3月にローマ・ミラノでの調査を予定していた。新型コロナウィルス感染症拡大の影響は収まりつつあったものの、研究者自身の健康状態などを考慮し、現地調査を延期せざるを得なかった。また、2022年度は歴史的な円安を記録するなど経済が不安定な状況であったため、洋書の購入計画に変更が生じた。 現地調査については、次年度6月の時点で調査が可能かどうかを判断し、渡航が可能な場合、繰り越し予算を渡航費用に充てる。具体的には、8~9月にローマ・ミラノ、翌年2~3月にロンドン・チャッツワース・ブライトンにて調査を予定している。渡航が難しい場合、次々年度に備えて現地調査先の優先順位を再検討し、渡航計画を練り直す(例えば、ローマでの調査を1回にまとめるなど)。また、文献調査を中心に研究を進める。購入が必要な図書については、すでにリストアップを進めている。具体的には、これまでの調査で共同制作に携わったことが判明している芸術家や顧客に関する研究書を追加購入し、人的ネットワークの整理を進める。また、ローマやミラノにおける芸術庇護に関する研究書を追加購入し、基本情報および調査が必要な項目の整理、作例の分布図作成を行う。
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