2022 Fiscal Year Research-status Report
Creating Cultural Commons through Music: With a focus on Settling and Aging Immigrants
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22K13019
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Research Institution | Shizuoka University of Art and Culture |
Principal Investigator |
南田 明美 静岡文化芸術大学, 文化政策学部, 講師 (50886687)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | 在住外国人 / 浜松 / 反抑圧的実践(AOP) / ケア / 多文化共生 / 公立文化施設 / 公民館 / 音楽 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究申請時は、在留外国人の定住化・高齢化に焦点をあて、音楽を通して、公立文化施設や高齢者施設が、彼らにとって「安心安全な場=コミュニティ」や「文化的コモンズ」(地域創造 2016)として機能するための問題点を整理し、さらに「理論と実践」を往復しつつ、シンガポール、英国、豪州と比較しながらアドボカシーを試みるものであった。 だが、本年度初期段階のインタビュー調査で公立文化施設の心理的バリアの高さや高齢者施設での外国人問題が露呈していないことから、現場に即し当初の研究計画を変更した。さらに、芸術分野を「音楽」に絞り込むことはニーズからずれる恐れがあり、さらに演劇が当該分野の先駆的事例を出していることから、特定の分野ではなく「アート」活動を探究することとした。 本年度は主に6つの事業を展開した。① 多文化共生に係るアートの可能性に関する論考の発表(山口・南田, 2023)、②静岡県浜松市における多文化共生とアートに関する実践と情報の整理(南田・鈴木, 2023)、③浜松市国際交流協会とJICA浜松デスクとの「ハマルおんがくプロジェクト」の始動した(アクションリサーチ)。これは、外国人集住都市・浜松市内でも外国人集住地区となる団地Aを舞台とし、協働センターや公民館といった社会教育施設を広義的な「公立文化施設」と捉え現状を把握、そして理論と実践の往復を進めることとした。④文化的コモンズに関する理論研究、⑤シンガポールでの調査を開始し、コロナ禍で途切れた政府関係性の再構築/修復に努めた。これらの成果に伴い、⑥「KAAT×北海道教育大学・公立小松大学・静岡文化芸術大学 「私たちの地域社会における共生をめざして」」の討論者等、アートマネージャーに向けたアウトリーチ活動も実施できており、2023年度も本研究に関して当該分野の「現場」との対話ができる見込みが既にある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現場に即し当初の研究計画を変更した。計画書では1年目に静岡県舞台芸術センター(SPAC)と連携することを明記したが、そこでも多文化共生×アートの試みを試行錯誤中であり、また高齢化に向けた取り組みに至っていないことが分かった(インタビュー調査)。 そこで、現場に即し「在住外国人に焦点をあてた文化的コモンズの形成」としながら変更し、本年度は主に6つの事業を展開した。① 多文化共生に係るアートの可能性に関する論考の発表(山口・南田, 2023)、②静岡県浜松市における多文化共生とアートに関する実践と情報の整理(南田・鈴木, 2023)、③浜松市国際交流協会とJICA浜松デスクとの「ハマルおんがくプロジェクト」の始動(アクションリサーチ)、④文化的コモンズに関する理論研究、⑤シンガポールでの調査を開始し、コロナ禍で途切れた政府関係性の再構築/修復に努めた。これらの成果に伴い、⑥「KAAT×北海道教育大学・公立小松大学・静岡文化芸術大学 「私たちの地域社会における共生をめざして」の討論者等、アートマネージャーに向けたアウトリーチ活動も実施できた。 なお、第2の「ハマルおんがくプロジェクト」は、浜松市南部の外国人集住地区A、小学校、協働センターの協力を得て始動した。この地域は、高齢化率も高い一方で老人会活動も盛んに行われている。そこで、公民館が文化的コモンズとなる可能性を見出し、段階的に外国ルーツのこどもたちの「居場所」づくりから始め、最終的に世代間交流の取り組みを実施したいと考えている。第3の点に関しては、最終的には、ベックのサブ政治論等と、カナダで展開されている「反抑圧的実践(AOP)」の理論を架け橋することで、実践に基づいた文化的コモンズ論を展開したいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
上記のように、研究に変更があった。だが、各論文・学会等での成果発表や国際シンポジウム等を開いたことで、他の研究者や「現場」の人々からの問い合わせがあり展開があった。そのことから、「おおむね順調に進展している」と自己判断している。 研究計画書では、事例研究として単年度ずつの調査で静岡県、愛知県、岐阜県可児市を挙げた。だが、日本の「多文化共生×アート」の状況を鑑みると、多文化共生の先駆的都市である浜松市における関係者とのラポール形成を大切にしてエスノグラフィックに研究を続けていき、モデルを発信していくことの方が実社会への還元が大きいと思われる。そのことから、今後、理論と実践を往復しながら、以下のように研究を進めたい。 ①週に1度開催の「ケア/アート/文化政策」研究会を開催し、現場実践の報告並びに理論を輪読する。そこで筆者は、ベック社会学とAOPとの懸け橋を考えていくことで、「文化的コモンズ」の形成に関わる実践理論が生み出せると考えている。2023年度に成果を出すことは難しいかもしれないが、2024年以降に論文として成果を発表したい。②浜松市国際交流協会とJICA浜松デスクとの「ハマルおんがくプロジェクト」の継続(アクションリサーチ)。③シンガポールとオーストラリアでの調査。とりわけ、前者について長期滞在する女性家事移民労働者(FDW)が実施する詩・文学・演劇活動について調査する。副次的に、FDWがケアする高齢者(移民1世)との関係性や問題についても明らかにできると考えている。④アウトリーチ活動の実施。2023年度には、本研究の成果を文化庁・大学における文化芸術推進事業等でアウトリーチ活動を実施し、「現場」との議論・対話を大切にする。⑤本件に関わる国際シンポジウムを、研究会仲間の手助けを頂きながら開催する。
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Causes of Carryover |
調査以前には分からなかったが、浜松において、社会包摂を目指すコミュニティ音楽家が不在していた。そのため、関西から音楽家を招聘せざるを得ない状況であったため、人件費が予想以上にかかってしまった。本年度は、アクションリサーチに関しても見直しの必要があると考えている。また、2022年4月には、シンガポールへの渡航が可能となった。そのため、シンガポールでの調査が可能となり、コロナ禍に記していた研究計画を大幅に変更、前倒しをし、これまでのシンガポールの芸術文化を通した移民・国民統合政策(科研費研究)を軸にして「研究基盤」を整えたうえで、浜松市におけるフィードワークを実施するほうが、有益な研究になりえると考えた。そのため、2022年9月より、渡航を開始した。
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Remarks |
「アート/ケア/文化政策」研究会は、ケアの倫理とアートと文化政策を架橋することを目指して、2021年から活動を開始している。申請者は、研究会のコアメンバーとして参加しており、本研究の研究成果の発表を実施するほか、国内外で第一線で活躍する研究者を招聘して関連するシンポジウムの開催を行っている。また、東南アジアでソーシャルアクションを起こす芸術団体との繋がりも強化している。
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Research Products
(15 results)