2022 Fiscal Year Research-status Report
デジタル録音メディアのフォーマット研究―Mini Discの受容と聴取環境の変容
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22K13020
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
日高 良祐 東京都立大学, システムデザイン研究科, 助教 (60803400)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | MiniDisc / デジタル録音メディア / メディア技術史 / フォーマット理論 / プラットフォーム研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、初期デジタル録音メディアのひとつであるMiniDisc(MD)をめぐるメディア技術史的な記述を通して、音楽聴取の「デジタル」化がどのような過程を経て今日的な様式を獲得するに至ったのかを技術的・制度的・文化的な側面から明らかにし、これによってポピュラー音楽の聴取におけるデジタルメディアの位置づけを理解するための理論的基盤を検討することである。今日の音楽聴取実践を示す際に欠かせない「デジタル」という用語の意味する範囲と変遷を明らかにし、デジタルメディア時代におけるポピュラー音楽研究の枠組みの更新を企図している。そのため2022年度は研究実施計画に沿って、1990年代以降のMD利用の実態を探るための実証的調査と、今日的なデジタル録音メディアを考察するための理論的基盤の検討を行ってきた。 実証的調査として、MDに関する機材カタログ資料や雑誌資料の収集、MDそれ自体と関連機材の収集を、中古市場を渉猟することで実施した。図書館収蔵の雑誌資料と異なり、機材カタログ等のエフェメラルな資料は中古市場で収集する必要がある。カタログ資料の検討により、当時のメーカーがどのようにMDの技術的・制度的・文化的な位置づけを主張したのか、具体的な用語や図表の収集と検討ができている。また関連機材の収集は、雑誌資料等での記述だけでは把握することの難しい機材・メディア間の具体的な関係を把握し、MDフォーマットが接合しているメディアリティ(J.スターン)の状況を理解するために重要である。 理論的検討として、①J.スターンが提示した「フォーマット理論」の検討を中心に置き、②MD機材はハードウェアとしてのプラットフォームであると同時に、圧縮音声技術を応用した音声データのためのネットワーク・プラットフォームとしての性格も持つため、本研究の枠組みにプラットフォーム研究の視座を応用するための検討を行ってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究課題の進捗状況が「やや遅れている」理由は以下の2点がある。 一つ目は、収集対象の資料が流通する中古市場の性格と研究費執行ルールとの齟齬である。実証的調査を進めるなかで、カタログ資料やMD機材といった資料が、「ヤフオク」や「メルカリ」といったインターネット上の中古市場において盛んに流通している事実が明らかになった。この点は、MD関連機材のメーカー生産が終了した2010年代以降におけるMDの社会的な位置づけ(「デジタル」機材に対するレトロブームの一環)を物語る興味深い事実ではあるが、実際に資料収集を進めるなかでは障害となっている。所属大学の科研費執行ルールでは、中古市場における資料購入は古物商とのやり取りに限っており、ヤフオク/メルカリ等での不特定個人からの資料購入には科研費を使用することができなかった。したがって個人的な範囲で収集せざるを得ず、資料収集に遅れが出た。 また二つ目は、2023年度より所属大学の異動があったことで、研究環境に大きな変化が生じたことが挙げられる。2022年度後半より異動にかかわる種々の準備等に時間を割く必要があり、研究活動自体のペースが落ちることとなってしまった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の今後の推進方策としては、本来の研究実施計画に立ち戻り、調査分析を進めることである。2022年度後半の所属大学異動にかかわる変更等は完了し、新しい所属先では中古市場での資料収集についても工夫する余地のあることが判明している。その上で、①実証的調査と②理論的検討のそれぞれについて、より具体的な遂行の計画を立てて進めていく。①については、これまでの調査のなかで明らかになってきた、MDに関連する技術開発・制度設計における時期区分、「エアチェック」趣味や「テキスト編集」趣味といった実践に関する区分に応じ、それぞれの資料体の収集と整理を行っていく。また資料調査をもとに選定したインタビュー対象者への接触と調査を開始する。②については、J.スターン『MP3: The Meaning of a Format』(2012)の翻訳出版を2023年度中に完了することを通じ、関連する研究会等の開催も含めて、さらなる検討を進めていく。またプラットフォーム研究に関連する研究会も実施予定であり、理論的な検討を進めていく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は以下2点がある。 一つ目は「進捗状況」にも記載した通り、収集対象の資料が流通する中古市場の性格と研究費執行ルールとの齟齬があったためである。申請していた支出では中古市場での資料収集を予定していたが不可能であった。2023年度からの所属先では工夫することで支出が可能な場合があること、また中古市場の選定方法を変えるなどすることで、対応可能である。また研究実施計画が遅れたことでインタビュー調査が後回しになっており、謝礼に関する支出が2022年度は無かった。 二つ目は、引き続き新型コロナウイルス感染症の状況があることにより、予定していた国際学会出張(International Association for the Study of Popular Music XXI Biennial Conference)がオンライン参加に変更になったことである。2023年度以降は好転すると見られるため、今後は申請時の計画通りに進めていく。
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Research Products
(3 results)