2022 Fiscal Year Research-status Report
江戸時代受容した中国戯曲文献に対して日本人が注記した中国戯曲構成要素の分析的研究
Project/Area Number |
22K13064
|
Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
伴 俊典 早稲田大学, 文学学術院, 講師(任期付) (70507095)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 中国戯曲 / 江戸時代 / 『水滸記』 / 『西廂記』 / 『琵琶記』 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は中国戯曲は江戸時代(1603-1868)に「書承」によって受容された中国戯曲文献を、独自の体例を持つ<書入れ>の理解を通じて当時の受容実態を明らかにする研究である。特に日本の中国戯曲受容の最初期である江戸時代特有の理解形成過程を解明することを目論むものである。 本研究の1年目は所定の計画通りに研究を進め、以下の活動と成果を収めた。1.江戸時代に輸入した中国戯曲文献の調査および調査方法の検討。2.江戸時代に輸入した中国戯曲文献『水滸記』訳文の翻刻および書入れ事項のデータ化。3.水滸記訳本群を通じて中国戯曲の受容過程を評価するための「評価基準リスト」の作成。 1.江戸時代に輸入した中国戯曲文献の調査および調査方法の検討について、江戸時代の中国戯曲文献の受容を示す記述を中心に文献、記述をまとめデータ化を行い、研究のための基礎資料を作成した。これまで資金が無くてできなかったデータ収集と整理を行うことができた。2.江戸時代に輸入した中国戯曲文献『水滸記』訳文の翻刻および書入れ事項のデータ化について、無名氏『水滸記訳本』抄本の「書入れ」部分の文字起こしと読解を進めた。3.水滸記訳本群を通じて中国戯曲の受容過程を評価するための「評価基準リスト」の作成について、テキスト内の書入れ傾向を15種22項目の評価基準を作成した。 以上の研究を、学会発表3件(国内学会における招待講演1件、国際シンポジウムにおける研究発表2件)、論文1本(国内学会1本)を発表した。特に日本における中国戯曲の初期的受容が幕府主導の漢籍理解から発した流れがあることは国外から様々な反応があり、周知や広く成果を公開する意味からも、海外において積極的に情報を発信する必要があると感じた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の1年目の研究計画通りに研究を行ったが、以下の通りの進捗状況である。研究実績の概要に挙げた1.江戸時代に輸入した中国戯曲文献の調査および調査方法の検討については資料収集に予定とは異なる部分が生じた。評価基準作成のための当時の受容水準をはかるための消化による売買資料調達について、江戸時代の文書群の購入ができなかった。研究開始以前、30万円程度を想定して江戸時代の輸入資料群の購入を見込んで予算を組んだが、オークションに購入予定の資料が出品され、272万円程度の価格で落札されたようで、個人が収蔵するにいたり資料調達と分析が叶わなかった。このため資料群を購入するための予算(書籍購入費用)、分析するための予算(アルバイト雇用予算)の予定通りの支出を取りやめた。それ以外の資料調査については予定通り進められた。 またその他の江戸時代初期の中国戯曲関連資料の読解の過程で「抄物」の作成過程における特徴が、特に同一作品に対する2種の異なる書入れを持つ特徴が、『水滸記』の2種の書入れテキストの作成に相似する特徴を発見した。 研究実績の概要に挙げた2.江戸時代に輸入した中国戯曲文献『水滸記』訳文の翻刻および書入れ事項のデータ化、3.水滸記訳本群を通じて中国戯曲の受容過程を評価するための「評価基準リスト」の作成については予定以上に進められた。 『水滸記』訳本群の分析を終了し『琵琶記』訳本、『諺解校注古本西廂記』の分析に進むことができるなど、テキスト整理は予定よりも進んだ。『水滸記』書入れを15種22項目の基準に照らして項目を明確化するとともに、三書共通の項目の選定を進めている。
|
Strategy for Future Research Activity |
資料購入の失敗などで資料の収集は今後図書館などに所蔵されている家蔵の文書などを広く採用して代替とする。その代替資料として新発見の大阪大谷大学図書館所蔵『舶来書目』原本と『舶載書目』の比較を行う。
2年目は予定通り『釋琵琶記』、『諺解校注古本西廂記』の二書の分析をさらに進め、また1年目の成果である『水滸記』の分析結果、および書入れの評価基準である各種のポイントに間違いがないか検証を行う。 また1年目の進捗状況に記した「抄物」の作成過程で教授者、学習者の双方の観点から同一のテキストに対して異なる書入れが残る特徴が『水滸記』抄本の複数の書入れを残す特徴と掃除する点に関して、当初の予定にはなかったが、新たに検討の対象に加えることとした。 また1年目の成果について、海外学会での発表を含む成果報告を積極的に行い、成果の周知と助言や誤りの指摘などについて、さらに活動を増やしていきたい。
|
Causes of Carryover |
当初予定していた古書店からの江戸時代中国戯曲関連資料がオークションに出されて落札額が予想額を大幅に上回り購入できなかったため、その予定分の経費と資料整理、読解のためのアルバイト経費を使用せず、消耗品購入費用とし、来年度分の消耗品、また研究立ち上げに係る消耗品の不足分を購入する経費としたが、1万円程度残ったので来年の資料購入経費に充てるものとする。
|
Research Products
(4 results)