2022 Fiscal Year Research-status Report
21世紀アメリカ小説における時間表象に関する研究――ドン・デリーロを中心に
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22K13071
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
平川 和 神戸大学, 人文学研究科, 助教 (40804141)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 現代アメリカ文学 / 時間論 / 詩的言語論 / ドン・デリーロ / マーガレット・アトウッド / おうち時間 / 反転性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、現代アメリカを代表する作家ドン・デリーロの小説などを手掛かりにしながら、21世紀を生きる人間主体がどのような時間世界を経験しているかを探る試みである。今年度は、終末論的思索を展開するデリーロの中編小説Point Omega(2010)に焦点を当て研究を行った。Point Omegaにおける「地質学的時間」や「スローモーション」といった時間表象を分析しながら、一般的にはポストモダニストの作家として認識されているデリーロのテクストにモダニスト流の「リリシズム的瞬間」が導入されることを発見し、デリーロの時間表象と詩的言語の密接な関係を明らかにした。この研究成果は、「砂漠化する文体,滲み出るリリシズム――Don DeLillo, Point Omegaにおける「静けさ」の詩学」(『神戸英米論叢』36号)と題した論文で発表した。 また、上記のPoint Omega論で明らかにした時間表象と詩的言語の関係を軸にし、「人体冷凍保存」をテーマにしたデリーロの長編小説Zero K(2016)の分析も進めた。この分析により、人間を非歴史化的する人体冷凍保存に対し、デリーロの詩的テクストが歴史化を促すものとして対置される可能性が明らかになった。この研究成果については現在論文投稿中である。 また、デリーロ以外では、マーガレット・アトウッドがコロナ禍に発表した短篇"Impatient Griselda"について分析した。この短篇では、コロナ禍がもたらした「おうち時間」をいかに過ごすべきかという問いが主題化されているが、分析を進めていくうえで、テクストの潜む「反転の力学」という興味深い要素を発見した。この発見については、『人文学を解き放つ』という入門書に寄稿した「反転の力学」と題したエッセイの中で発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
デリーロの2作品について分析し、うち1本を論文化でき、もう1本は論文投稿中である。 また、派生的な研究として、アトウッドの作品についても分析が進み、エッセイ化することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
まずはZero K論を論文化を目指す。 また、アトウッドについてのエッセイの内容を発展させたものを学会で発表し、その内容の論文化も目指していく。
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Causes of Carryover |
購入予定の図書が納期の関係で2022年度内に購入することができなかったので、次年度において購入する計画である。
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