2022 Fiscal Year Research-status Report
ハーマン・メルヴィルの作品にみるアメリカ的理想の破壊と再創造
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22K13082
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
田ノ口 正悟 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 専任講師 (50879898)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | アメリカ的理想の破壊と再創造 / Edgar Allan Poe / Herman Melville / 出版文化 / フリークショー / アジア表象 / ヤング・アメリカ運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、19世紀アメリカのロマン派を代表する作家Herman Melvilleが描く虚無的描写(逃亡、自殺、破滅など)にアメリカ的理想の破壊と再創造がこめられていることを論じることにある。1年目の本年は、まず研究の前提を固めるため、Melvilleと同時代に執筆された文学作品を広く読解しながら、それらにあらわれる虚無的描写の分析を進めた。 とりわけ研究を進めたのは、Melvilleよりひと世代前に活躍したEdgar Allan Poeである。日本でもあまり研究の進んでいない彼の第2作品集Tales (1845)に描かれる死について同時代の社会言説と絡めながら分析することで、彼がアメリカ社会、とくに北部ニューヨーク文壇への根源的批判を行っていたことを論じた。今回の研究で明らかになったことは、Poeの批判が単なる批判に堕することなく、むしろ産業文明が進み抽象的なイデオロギーが支配的になりつつあるアメリカにおいて忘却される肉体やそれに根ざす官能を再評価しようとしていたことである。本年の研究成果は、日本ポー学会第13回年次大会でのシンポジウム「ポーと戦争」での口頭発表後(2022年9月17日オンライン開催)、同学会の学術誌『ポー研究』第15号に掲載の予定である。 また、本年は本課題において重要な位置をしめる論考を発表した。そこでは、Melville作品における中国と日本の表象をたどりながら、いかにアメリカ帝国主義がフリークショー文化と連動していたのかを論じ、作品に描かれる白人主体の不安定性について考察した。本考察は“Freaky Asian Junks: Herman Melville and Antebellum Exhibition Culture”として査読通過の上、The Japanese Journal of American Studies第33号に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究状況としてはおおむね順調に進行しているといえる。ただし当初参加を予定していた国際学会に関してはコロナ感染状況を加味して断念した。今後は自身の研究成果を国際的に発信する場を積極的に探していくよう進めていく。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針としては以下のように進める予定である。 令和5年度:19世紀のアジア思想の受容とMelvilleが晩年ショーペンハウアーに傾倒していたことをたどり、遺作Billy Buddを仏教とキリスト教の融合を通じて新しい個人の在り方を示した作品として読解する。日本メルヴィル学会にて発表を行う。アメリカにて資料収集と国際学会への参加を行う。 令和6年度:The Rebellion Record (1860)を読みながら南北戦争が「第2のアメリカ独立革命」であったという歴史的背景を明らかにしつつ、Battle-Piecesを南北間の建国の理念をめぐる戦争への応答として読解する。アメリカにて国際学会に参加する。 令和7年度:TypeeとMardiを、当時流通していた南太平洋冒険譚とあわせて読みながら、Melvilleの創作の原点に白人的物語の脱構築があったことを示す。彼の描く太平洋は、西洋世界の偏見を否定すると同時に、新たな文学観を構築する実験的空間であったと考えられる。アメリカにて資料収集と国際学会への参加を行う。 令和8年度:過去4年の研究をまとめた上で、単行本『虚無の力――ハーマン・メルヴィルの作品にみるアメリカ的理想の破壊と再創造』として出版を目指す。本年はアメリカにて国際学会に参加する。
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