2023 Fiscal Year Research-status Report
ハーマン・メルヴィルの作品にみるアメリカ的理想の破壊と再創造
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22K13082
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
田ノ口 正悟 早稲田大学, 教育・総合科学学術院, 准教授 (50879898)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | Herman Melville / Billy Budd / 情動理論 / ポストクリティーク / アメリカ例外主義 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、19世紀アメリカのロマン派を代表する作家Herman Melvilleが描く虚無的描写(逃亡、自殺、破滅など)にアメリカ的理想の破壊と再創造がこめられていることを論じることにある。2年目の本年は、1年目に行なっていた虚無についての理論的歴史的研究を引き続き進めながら、具体的な作品研究を進めた。 とりわけ中心として取り上げたのは、Melvilleの遺作Billy Budd(1923)である。18世紀イギリス海軍における反乱を題材として書かれた本作は、他者理解の困難さ、キリスト教的善悪の相対化、人間社会における規律(法)などを問う作品である。ウィリアム・V・スパノスのThe Exceptionalist State and the State of Exception(2011)に代表されるように、本作の解釈の主流は、作品が暗示する社会的抑圧や不平等に向けられてきた。作品の背後に隠匿された政治的主題をパラノイア的に読解するのではなく、本研究で注視したのは、作品の表層にとどめ置かれた感情である。近年隆盛する情動理論やポスト・クリティークといった方法論に立脚しながら、言語化を拒む感情を描く本作の分析を通じて、メルヴィルが晩年に至るまで追求したのは、政治的社会的メッセージの表現ではなく、新たな文学の境地であったことを明らかにした。 本年の研究成果は、日本メルヴィル学会第10回年次大会でのシンポジウム「思想家を通じてメルヴィルを語る」での口頭発表後(2023年9月10日専修大学神田キャンパス開催)、同学会の学術誌『Sky-Hawk』第11号にプロポーザルを掲載した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現在までの研究状況としてはおおむね順調に進行していると言える。ただし当初参加を予定していたアメリカ出張についてはコロナ感染状況を加味して断念した。しかし本年度より他大学の研究者と合同して成果物を合評する会を結成した。それを通じて、自身の研究を深化すると同時に、他大学の若手研究者とのコミュニケーションを図った。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究方針としては以下のように進める予定である。 令和6年度:TypeeとMardiを、当時流通していた南太平洋冒険譚とあわせて読みながら、Melvilleの創作の原点に白人的物語の脱構築があったことを示す。彼の描く太平洋は、西洋世界の偏見を否定すると同時に、新たな文学観を構築する実験的空間であったと考えられる。10月に福岡大学で開催される九州英文学会でのシンポジウムへの参加が決まっており、そこで研究成果を発表する予定である。 令和7年度:The Rebellion Record (1860)を読みながら南北戦争が「第2のアメリカ独立革命」であったという歴史的背景を明らかにしつつ、Battle-Piecesを南北間の建国の理念をめぐる戦争への応答として読解する。アメリカにて国際学会に参加する。投稿が受理されている共著に本研究の一部を出版する。 令和8年度:過去4年の研究をまとめた上で、単行本『虚無の力――ハーマン・メルヴィルの作品にみるアメリカ的理想の破壊と再創造』として出版を目指す。本年はアメリカにて国際学会に参加する。
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Causes of Carryover |
2024年10月に福岡でのシンポジウムに参加する旅費にあてるため。
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