2022 Fiscal Year Research-status Report
A Study on Late Benjamin's Concept of Tactile Sensation
Project/Area Number |
22K13087
|
Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
茅野 大樹 筑波大学, 人文社会系, 助教 (30914139)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | ベンヤミン / ライプニッツ / コーヘン / 認識論 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題全体の目的は、後期ベンヤミンにおける身体知覚や無意識の問題をライプニッツ認識論の伝統の中で捉え直すことにある。この内2022年度の研究内容は、上述の問題を考察するための準備として、前期ベンヤミンにおける認識論の基礎を明確化することである。このために本年度中には、主に以下の三つの学術論文を発表した。 まず「アレゴリー的実存とメランコリー――ベンヤミンの悲劇論における生の表現について」(『実存思想論集』)において、ベンヤミンのバロック悲劇論におけるメランコリー概念の認識論的意義を論じた。それにより、新プラトン主義的伝統における神的な直観としてのメランコリーが、ベンヤミンにおいて無機物や断片的アレゴリー表現への固執として捉え直されたことを明らかにした。また「関係性の詩学――初期ベンヤミンのヘルダーリン論」(『ヘルダー研究』)においては、ベンヤミンのヘルダーリン解釈に見られるへリングラートの解釈学とカッシーラーの認識論の影響を論じた。それにより、すでに初期ベンヤミンがライプニッツのモナドロジー的認識論に接近していたことが明らかとなった。この点を敷衍した成果が「内包量と微分――ヘルマン・コーヘンの新ライプニッツ主義」(『ライプニッツ研究』)である。そこでは、初期ベンヤミンに大きな影響を与えた新カント派コーヘンによる、数学・論理学に傾倒したライプニッツ解釈を論じることで、ベンヤミンによる解釈との差異がより明確になった。 以上の研究により、前期ベンヤミンの認識論においてライプニッツ解釈が中心的な意義を持ったこと、またその解釈が同時代の新カント主義との対決の中で生まれたことを明らかにした。この成果は、2023年度以降に後期ベンヤミンの知覚論を考察する際に、ライプニッツ認識論の伝統との比較検討を行うための基礎となる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画である、前期ベンヤミンの認識論に対するライプニッツの影響という観点では、上述の三つの学術論文を具体的な研究成果として発表することができ、おおむね順調に進展している。 それに加えて2022年度には、国際会議でのドイツ語による口頭発表「Kapitalismus als Relation. Ueber den Kult der Dinge bei Marx und Benjamin 」(62. Kulturseminar der JGG)を行った。それにより、2023年度以降に実施する予定であった後期ベンヤミンにおける触覚論や身体知覚論の問題を先取りして、具体的な成果として発表することができた。同発表においては、マルクスの商品論とベンヤミンの物神崇拝の問題を論じた。この点は当初の研究計画において明確にできていなかったが、本研究課題全体にとっても重要な意義を持つことが明らかになった。 元来の研究計画には含まれなかった研究成果からさらなる研究の展望を得ることができたという点で、全体としては当初の計画以上に進展している。
|
Strategy for Future Research Activity |
2022年度においては主に前期ベンヤミンの認識論に取り組んだが、今後はそれを後期における無意識や身体知覚の問題と接続する必要がある。そのためには、後期ベンヤミンのテクスト読解だけでなく、18世紀ドイツ語圏の作家や思想家によるライプニッツ受容の検討が必要となる。これまでの研究ではベンヤミンのテクストに研究の重心を置いていたため、それ以外の作家に関する研究の進捗が当初の計画よりも若干遅れている。今後はこの点を改善すべく、主にヘルダーやレッシングの触覚論に関するテクストの読解を鋭意進める予定である。
|
Causes of Carryover |
2022年度中に行った物品購入において、購入書籍の単価と数量が想定よりも少なかったことから次年度使用額が生じた。2023年年度には、前年度から繰り越した金額を主に物品購入に充てる。
|
Research Products
(4 results)