2022 Fiscal Year Research-status Report
An integrative study of compound predicates and the head-head merger
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22K13104
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Research Institution | Kogakuin University |
Principal Investigator |
秋本 隆之 工学院大学, 教育推進機構(公私立大学の部局等), 助教 (70824845)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 複合語 / 動詞 / 動名詞 / 軽動詞 / 連濁 / 分散形態論 / 省略 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、形式的な形態統語理論を用いて、日本語複合語の構造と派生メカニズムの解明を目的としている。本年度は【右側要素に動詞を持つ二種類の複合述語】(V-V型:抜き取る;X-V型:横取りする)について形態統語的分析の開発を行った。この二種類の動詞的複合述語はいずれも右側要素に動詞を持っているのにもかかわらず、品詞的振る舞いと連濁の可否において異なる振る舞いを示す。V-V型は「動詞」として振る舞い(つまり、直接時制辞などの動詞的要素が後続できる)、かつ、連濁は起こらない(例:ぬきどるにはならない)のに対して、X-V型は「動名詞」として振舞うために「する」の介在を必要とし(例:横取りする/*横取る)、連濁が起こる(例:よこどり)。この振る舞いの違いを説明するために、V-V型は前項要素が独立して書き出し(Spell-Out)される一方(Piggott&Travis 2013)、X-V型は前項・後項が同時に書き出しされる(Hardarson 2021)という仮説を提案した。さらに、独立して、「する」はVoiceの非該当形であるという仮説と連濁は複合語の構成要素が同じ書き出し領域 (Spell-Out Domain)にある(つまり、局所的な)場合に起こるという仮説を仮定することで、これらの振る舞いの違いが正しく予測されることを示した。さらに、本提案の理論的帰結として、等位接続における前項の省略の可否(食い止めるか止めないか vs. *口止めするか止めしないか)についても正しく予測できることが導かれた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の目標は【右側要素に動詞を持つ二種類の複合述語】(V-V型:抜き取る;X-V型:横取りする)について、それらの品詞的性質および連濁可否の振る舞いの違いを説明するための形態統語的分析の開発を行うことを目標としたが、本目標は概ね達成することができた。研究成果の一部は2022年9月にオンラインで開催されたMorphology & Lexicon Forum 2022 および2023年3月にSimon Fraser University (Vancouver, Canada) で開催された The 30th Japanese/Korean Linguistics Conference で発表した。なお、後者の発表は今後Japanese Korean Linguistics 30 という国際学会プロシーディングスとして刊行される予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
二種類の複合述語に対する「書き出し領域の違い」に基づく仮説は一定の説明力はあるものの、なぜ複合語のタイプによって書き出し領域(Spell-Out Domain)が異なるのかについては、まだ説明ができていない。可能性として「項の認可」や「ラベル付け」が関与していることが考えられる。「項の認可」についてはV-V型の複合述語の項構造をより詳しく精査して行く必要がある。「ラベル付け」に関しては、句と句の併合におけるラベル付けは研究が進んでいるものの、主要部と主要部の併合におけるラベル付けは大きな進展を見せていない。これについては、「句と句の併合におけるラベル付け」と「主要部と主要部の併合におけるラベル付け」は同じ原理で行われるという仮説のもと進めて行く。さらに、連濁についてはこれまで音韻論的枠組みで膨大な研究があるものの、形態論(特に、分散形態論の枠組み)において、どのような形態統語的条件が課されるのかについてはまだ研究の余地が残る。これについては名詞+名詞の複合語や形容詞を含む複合語を調査することで解明していきたい。また、2023年度は【右側要素に形容詞を持つ複合語】(例:義理堅い/骨太な)の品詞的振る舞いの違いについて調査する予定である。これらについては、統語的な範疇と形態的な範疇の一致・不一致の観点から分析を試みる。
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Causes of Carryover |
本年度の直接経費はもともと50万円であり、その内17万円を旅費として使用する予定であった(当初は2022年度はアジアの近隣諸国で開催される国際学会で発表を行う予定であったため、17万円とした)。2022年11月頃にカナダ・バンクーバーで開催される国際学会に採択されたが、近年の航空費の高騰などにより17万円では学会出張ができないため、20万円の前倒し申請を行った(2023年度、2024年度の交付予定額からそれぞれ10万円ずつ)。次年度使用額の42,523円は前倒し申請を行った20万円の残額である。2023年度は次年度使用額42,523円を旅費として計上し、国内・国際学会で研究成果を発表する予定である。
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Research Products
(4 results)