2023 Fiscal Year Annual Research Report
空範疇の仮定によるドイツ語不定詞名詞化項構造の研究
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22K13111
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
小林 大志 東北大学, 高度教養教育・学生支援機構, 講師 (10880693)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 不定詞名詞化の動詞性 / 項構造の継承 / 不定詞名詞化のPRO主語 / 名詞化の種別 / 属格の解釈 |
Outline of Annual Research Achievements |
項構造の研究において、動詞の名詞化は、動詞と共通の意味的項を持つことから中心的なトピックである。大きな問題となっているのは、名詞化が、「統語論的に表現される項に関する独立の情報」としての項構造を持つのかどうかである。本研究では、現代ドイツ語にみられる動詞をそのまま中性名詞に転じた不定詞名詞化(IN)に注目し、過去の研究で動詞的不定詞の分析に用いられてきた空範疇主語(PRO)をINにも仮定する独自のアイデアに基づき、コーパスデータと母語話者への聞き取りによる調査・分析を行なった。 最終年度(2023年度)の成果として、2点が挙げられる。[1]INと形態論的な派生名詞化(DN)に付される前置属格のコーパスデータから、INが動詞と同様の項構造を有する一方、DNはそうではないことがわかった。ドイツ語の属格(日本語で言えば「○○の」)は主要部名詞に前置または後置されるが、前置属格の分布は無冠詞固有名詞など限られた範疇に限られており、従来研究では軽視されていた。本研究ではこの形式に注目し、INとDNの別に応じて前置属格の解釈の分布が異なること、特にINに付された前置属格の解釈が、動詞における主語の解釈に相似の分布を示すことを発見した。この発見は、INがPROを持つという仮定の下では、INが動詞様の項構造を持つことを示唆する。この成果は、2024年5月に電子公開予定の論文で発表される。[2]使役起動交替(日本語で言えば「壊す」ー「壊れる」のような構文対)に関わる動詞の名詞化のコーパスデータから、INが動詞的項構造を有することを示す追加の観察が得られた。この成果は2023年夏に行われた日本独文学会語学ゼミナールで発表された(論文準備中)。 研究期間全体を通じた成果として、次の2点が示されたものと考える。[1]INは基盤動詞と共通した項構造を持つ。[2]その統語的実現にはPROが用いられる。
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