2023 Fiscal Year Research-status Report
『万葉集』の音仮名と訓仮名から見た表記体についての研究
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22K13131
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
澤崎 文 早稲田大学, 文学学術院, 准教授 (40706644)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 万葉仮名 / 音仮名 / 訓仮名 / 表記体 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、『万葉集』の訓字主体表記と仮名主体表記を比較して、仮名主体表記にはまったく(もしくはほとんど)使われないが訓字主体表記には使われるという音仮名にはどのようなものがあり、それぞれどのように訓字主体表記内で用いられて、どのような性格があるかを調査した。また、それに該当する音仮名を性格ごとに整理・分類した。 調査の結果、A:訓字主体表記にしかない音仮名字母は54音節113字母、B:仮名主体表記よりも訓字主体表記に用例の多い音仮名字母は16音節21字母であった(ただし、二合仮名は除く。また、異なる音節への重出はそのつどカウントしている)。 これらの傾向を見ると、Aの字母は使用回数1回や2回のものが多く、一回的、個別的、臨時的な性格が見られる一方で、Bの字母は使用回数が多いものが多く、くり返し使われているだけでなく、非個別的なものが多い。つまり、その字の使用法がある程度社会的に共通理解として得られていたということである。 Aの字母でもくり返し用いられるものは、特定の固有名詞と結びついているものが多く、その固有名詞の正表記となっていると見られるのでそれらは分けて考えるべきである。Bの字母は固有名詞以外の語を表記することが多いが、「為便(すべ:術)」など、特定の語を表し、漢字の表音用法でありながら表意的に使用するものが多く、そのありかたは訓仮名に通じる。Bの字母には、先行研究で訓仮名に近い意識で使われていると指摘されているものも多い。音読みを読みの根拠として持つ音仮名でありながら、訓仮名に近い振る舞いをするということの意味や、そのことと訓字主体表記という表記体の表記システムとの関係を考察した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
2023年度の研究成果を2023年度中に発表することを目指していたが、それができなかった点はやや進捗が遅れていると言える。2024年度に早く発表して遅れを取り戻したい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、仮名主体表記には使われて訓字主体表記には一切使われない音仮名にどのようなものがあるかや、その性格を探る予定である。これにより、仮名主体表記がどのような音仮名の使用を要求する表記体であるか、訓字主体表記との対比で明らかにすることを目指したい。 また、可能であれば各表記体のみに見られる訓字のあり方についても考察を広げたいと考えている。
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