2023 Fiscal Year Research-status Report
閉じていく日本帝国と台湾:「華僑」概念の再検討を通して
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22K13220
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岡野 翔太 大阪大学, 大学院人文学研究科(外国学専攻、日本学専攻), 招へい研究員 (40942412)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 華僑 / 東アジア / 日本 / 台湾 / 台僑 / 歴史認識 / 中華民国 |
Outline of Annual Research Achievements |
戦後の日本で在日台湾人が「華僑」と見なされ議論されてきたことは、戦後東アジア地域秩序の再編と無関係でない。そこで本研究では、「華僑」というカテゴリーの成立には、時代の制約の中で「華僑」を描こうとする歴史記述者によって不可視とされた存在といかに関わっていたのかを明らかにする。 そのうえで本研究では、在日華僑研究が進展する1990年代以前に、在日華僑ならびに台湾出身者が日本と台湾(ときに中国大陸)の政治変動に対応し、またどのような言論活動を展開したのかについて、特に注目している。同時に報告者は、台湾出身者が戦後の日本で「華僑」として自らをアイデンティファイしていく過程を追いかけ、関連する資料の収集と整理・公開に注力している。 2023年度は前年度に引き続き、(1)台湾における史料調査、(2)日本における史料調査、(3)日本での聞き取りならびにフィールド調査、(4)本科研のテーマと関連あるいは隣接する領域の研究者との合同研究会を実施した。 (1)については中央研究院近代史研究所、同・台湾史研究所、国立台湾大学図書館、国立台湾図書館にて、中華民国政府の外交部档案や、在日台湾人の日本移住前の資料等を収集した。(2)としては国会図書館、外交史料館、神戸華僑歴史博物館、中華民国留日神戸華僑総会などで史料調査を実施した。(3)では関東や関西の華僑・在日台湾人団体の関係者への聞き取り調査を行った。(4)は、2023年6月4日に大阪大学中之島センターで十河和基氏が「帝国主義と国際協調の相克を考える:戦前日本の政党内閣にとっての台湾」と題した研究報告を行った。このほか本研究の共催でシンポジウム「名古屋アジア散歩」を計三回(2023年10月14日に大阪大学、11月4日に金城学院大学、2024年3月2日に名古屋市立大学)実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究実績の概要で示した史料・フィールド調査を基に、①日中未国交期の在日華僑の合唱活動、②名古屋華僑と「二つの中国」の関係、③横浜中華街の「台湾系華僑」と双十節祝賀行事の関係、の三点の研究課題を設定し検討を行った。 ①は、2024年夏ごろに京都大学人文学研究所附属現代中国研究センターの共同研究班「20世紀中国史の資料的復元」が刊行する論文集に収録予定である。②は第21回日本台湾学会関西部会(2023年12月23日)に、③は第193回大阪大学地域研究フォーラム(2024年1月24日)にて報告を行った。②と③はいずれも2024年度中に刊行される書籍に収録される予定である。史料の整理としては、研究協力先の華僑団体などが所蔵する写真ならびに華僑の登録関係の書類のデジタル化作業を進めている。将来的には関係機関の同意と、個人情報の取り扱いに十分配慮したうえで公開したいと考え、その調整作業を行った。この点は2024年度以降も継続して行う。 また2023年度は博士論文を大幅に改稿し、単著『二重読みされる中華民国:戦後日本を生きる華僑・台僑たちの「故郷』(大阪大学出版会)を刊行した。本書の第七章は書下ろしで、本研究費による助成を基に執筆した。一部、研究成果の公開が2024年度にずれ込んだものもあるが、おおむね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も引き続き、国内外で研究調査を実施する。これまでは大都市圏に絞って調査を行ってきたが、四国・九州・北陸・東北地方の華僑団体や関係者にも聞き取り調査を実施し、資料を収集したい。また華僑団体所蔵資料のデジタル化を進め、台湾の研究機関と合同で資料の保全作業にあたり、公開作業を進めていく。以上の点についても、随時、整理し研究会・学会での報告と論文の執筆にあたる。
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Causes of Carryover |
円安と物価高の影響から、海外渡航など旅費にかかる費用が高騰し、出張などの日程の見直しなどを行ったため、次年度使用額が生じた。次年度使用額が生じた予算については,次年度の出張を伴う資料調査等への支出に充てる予定である。
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