2022 Fiscal Year Research-status Report
西ドイツの公的記憶と歴史展示:1970~80年代の国民統合と和解の試み
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22K13226
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
大下 理世 中央大学, 法学部, 助教 (20880983)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 公的記憶 / 旧西ドイツ / 和解 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、旧西ドイツ(1949-1990)において、ドイツ帝国創立100周年(1971)を機に行政機関によって企画された歴史展示「1871年―ドイツ史を問う」(於ベルリン)の成立と発展の過程を検討する。具体的な論点は、[A].歴史展示の内容と国内での受容、[B].近隣諸国との和解の意図と歴史展示に対する国外の反響、[C].歴史展示をめぐるその後の議論、という三つの観点から検討する。本研究は、これらの課題に取り組むことで、1970年代から1980年代の西ドイツにおいて、過去に関するどのような記憶が「立場・世代を越えて語り継がれるべき記憶」(以下、公的記憶)として国民統合に活用されたのか、そしてその際、近隣諸国との和解の意図がそこにいかなる影響を与えたのかを解明する。 2022年度は、以下の二つの課題を遂行した。第一に、歴史展示の企画段階において、国民国家創設に至る19世紀の歴史的展開の中で、いかなる歴史的事象が現代の西ドイツの歴史的起源に位置づけられたのか、連邦内務省文書および当時の展示カタログから明らかにした。第二に、同時代の新聞報道および連邦内務省文書を通じて、当時の展示訪問者の反響を明らかにした。その際、同時代にラシュタットで企画された「自由を求める運動のための想起の場」運営委員の議論においてベルリンの展示が比較対象にされたことに着目し、ここでのベルリンの歴史展示への発言内容を刊行史料から検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究が設定した二つの研究領域([A].歴史展示の内容と国内での受容、[B].近隣諸国との和解の意図と歴史展示に対する国外の反響、[C].歴史展示をめぐるその後の議論)の内、2022年度は、[A].に取り組んだ。歴史展示の内容については、連邦内務省文書とカタログを通じて歴史展示で重点が置かれた歴史的事象について分析を行った。他方、国内での受容については、本務先の異動と新型コロナウイルス感染症拡大の影響で当初予定していた渡航調査はできず新たな未刊行史料の入手は叶わなかった。だが、同時代の新聞・雑誌および刊行史料、特に、同時代にラシュタットで企画された「自由を求める運動のための想起の場」運営委員の議論に関する刊行史料を通じて、当時の西ドイツ国内での受容の在り方や歴史家による評価について明らかにした。 したがって全体としては、計画はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、1970年代から1980年代の西ドイツにおいて試みられた、国民史をテーマとする歴史展示に着目し、当時課題として認識されていた「国民統合」と「隣国との和解」をめぐる連邦政府の意図を視野に入れながら、自国史をめぐる戦後ドイツの公的記憶がいかにつくられたのか、明らかにすることを目的とするものである。 本研究が設定した二つの研究領域([A].歴史展示の内容と国内での受容、[B].近隣諸国との和解の意図と歴史展示に対する国外の反響、[C].歴史展示をめぐるその後の議論)の内、2023年度は、[B]の課題に取り組む予定である。具体的には、第一に、ドイツにおける新たなナショナリズムの高まりに対して警戒していたフランスとの関係改善を目指す西ドイツ政府の意図が、展示の企画段階ではいかに議論されたのか、連邦内務省文書をもとに検討する。第二に、企画段階で特に見られたフランスの反応への懸念が、実際にいかなる影響を展示に与えたのかについて、展示史料の叙述を検討する。第三に、歴史展示の企画者たちが、展示に対する国外の反響をどのように評価したのか、特に1974年の展示の存続をめぐる議論を連邦内務省文書から検討する。
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Causes of Carryover |
2022年度は本務校の異動および新型コロナウイルス感染症拡大により、予定していたドイツでの渡航調査を断念したため次年度使用額が生じた。2023年度中にも渡航が難しい場合は、これまでに収集した史料の分析に加え、日本およびドイツの刊行史料の収集・分析を行うことで、本研究課題を遂行する予定である。
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Research Products
(1 results)