2022 Fiscal Year Research-status Report
Political and Diplomatic Utilisation of Relics by the Byzantine Empire and Its Influence to the Caucasian Christian Culture
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22K13229
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
仲田 公輔 岡山大学, 社会文化科学学域, 講師 (10872814)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | アルメニア / ビザンツ / 聖遺物 / 聖十字架 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、キリスト教を代表する文化の一つである聖遺物崇敬について、中期ビザンツ帝国(7-12世紀)による聖遺物の対外的利用が、コーカサス地域独自の聖遺物崇敬の形成にどのような影響を与えたかを明らかにすることを目指している。特に、従来ビザンツ側のトップダウンな影響が強調されてきたのに対し、コーカサス側の豊富な現地語史料を用いて、現地の人々が崇敬文化の形成にどのように関わったのかを明らかにし、相互交渉の実態を示すことを目指している。 今年度はアルメニア語歴史叙述の分析から、ビザンツからアルメニアへの聖十字架の分与とその受容過程に関する考察を行った。アルメニアでは、従来は後期ローマ時代(3世紀)にローマの女性聖人フリプシメがもたらしたとされる聖十字架断片の崇敬が重視されていたが、7世紀以降はヘラクレイオス帝(在位610-642)が630年代に対サーサーン朝戦争勝利後に、後者についた者も多かったコーカサス諸勢力を懐柔する目的で分与したとされる聖十字架をはじめ、ビザンツ皇帝に分与された聖十字架に関する伝承が見られるようになっていく。10世紀までには、ビザンツ教会と距離を取り、アルメニア独自の崇敬を重視する勢力が前者を、ビザンツへの接近を図る勢力が後者を重視するという構図が生じた。今年度の研究成果は、ビザンツがアルメニアを支配した10-11世紀にヘラクレイオス由来の聖十字架を重んじる歴史叙述が見られるも、その支配が崩壊する11世紀後半以降になると、再びアルメニア独自のフリプシメの聖十字架の崇敬が勢力を取り戻す様子が、12世紀の史書『アルツルニ家の歴史』から見て取れたことである。最も重要な聖遺物の一つである聖十字架の崇敬をどのようなかたちで行うかは、アルメニアの政治文化とも密接に関連していたのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
情勢に鑑みて、当初より本年度は収集済みの文献からの調査を中心とするつもりであった。そのため、予定通りの研究を行うことができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
予定通り、写本奥付や碑文を用いた研究に着手し、対象を広げていきたい。
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Causes of Carryover |
収集済みの文献から調査可能な範囲が多かったため。
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