2023 Fiscal Year Research-status Report
Political and Diplomatic Utilisation of Relics by the Byzantine Empire and Its Influence to the Caucasian Christian Culture
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22K13229
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Research Institution | Okayama University |
Principal Investigator |
仲田 公輔 岡山大学, 社会文化科学学域, 准教授 (10872814)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | アルメニア / ビザンツ / 聖遺物 / 聖十字架 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、キリスト教を代表する文化の一つである聖遺物崇敬について、中期ビザンツ帝国(7-12世紀)による聖遺物の対外的利用が、コーカサス地域独自の聖遺物崇敬の形成にどのような影響を与えたかを明らかにすることを目指している。特に、従来ビザンツ側のトップダウンな影響が強調されてきたのに対し、コーカサス側の豊富な現地語史料を用いて、現地の人々が崇敬文化の形成にどのように関わったのかを明らかにし、相互交渉の実態を示すことを目指している。 今年度は写本奥付や碑文についての研究を進める予定だったが、歴史叙述から得られる情報が想定外に多かったため、引き続き考察を行った。以前より重視してきた、この問題を考察する鍵となる史料、『アルツルニ家の歴史』続編(第4巻、12世紀)の分析が中心である。ここからは、11世紀初頭にビザンツ領となったヴァスプラカン地域(ヴァン湖東部)においては、ビザンツの支配が崩壊し始める11世紀半ば~後半にあっても、現地のアルメニア人有力者に嫁いだビザンツの有力者の一族に出自を持つと思しき女性が、ビザンツ由来の様々な聖遺物である「アパランクの聖十字架」の庇護を行っていたことが明らかとなった。このときのヴァスプラカンを支配していた有力者は、従来この地域を支配してきたアルツルニ家の一族がビザンツの内地に引き上げ、またビザンツの当局も撤退していく中で、従来とは違う階層から台頭してきた一族だった。トルコ系勢力の進出が本格化する11世紀なかばの不透明な状況にあってもまだ、確たる背景を持たないアルメニアの現地有力者がが正統性や権威を強化しようとする際には、ビザンツとのつながりや、ビザンツ由来の聖遺物の名声を利用することは、一定の意味を持ち続けていたことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
育児休業を取得したため。
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Strategy for Future Research Activity |
写本奥付や碑文を用いた研究に着手し、対象を広げていきたい。
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Causes of Carryover |
収集済みの文献から調査可能な範囲が多かったため。
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