2022 Fiscal Year Research-status Report
アンデス・アマゾン間境界領域におけるフロンティア力学:前二千年紀の事例をもとに
Project/Area Number |
22K13237
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
金崎 由布子 東京大学, 総合研究博物館, 助教 (10908297)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | アンデス考古学 / アマゾン考古学 / フロンティア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、アンデス・アマゾン間の境界地域における先史社会の動態を追跡し、文明形成プロセスを明らかにするものである。そのために、山地と熱帯低地の境界にあり、文明形成の初期に一つのフロンティア領域を形成していたアンデス東斜面の熱帯林での考古学調査を実施する。 2022年度は、ペルー共和国ワヌコ州ワマリエス郡モンソン地区にあるチャウピヤク遺跡の発掘調査を実施した。この遺跡は、標高約1000mの熱帯雲霧林地帯に位置している。これまで、標高2000m程度の山間地域では、形成期の基壇建築遺跡が多く発見されてきたが、この地域での同様の遺跡の発見はこれまで殆ど例がなく、中央アンデスとアマゾンとの初期の交流関係を考察する上で極めて重要な遺跡であった。本研究では当遺跡の発掘調査を行うことによって、文明形成期における境界領域の動態の理解を深めることを目指した。 本年度の調査では、円形および方形の半地下式広場や、最上段の基壇上に建設された部屋状構造物などの存在が明らかになった。この遺跡は2つの時期に分けられ、はじめに円形・方形広場や部屋状構造物が建設されたのち、円形広場の埋め立てや部屋状構造物の改変が行われた。 出土した遺物は、土器および石器・石製品が主である。土器は2つの時期があり、最初の時期では中央アンデス地域に広く見られる無文の壺類と、東斜面および熱帯低地の土器と類似した文様を持つ鉢類とが出土した。次の時期には近隣の山間部で見られる土器スタイルと、低地のウカヤリ川流域で見られる土器スタイルとが共伴していた。石器では、遠距離地域からもたらされたと考えられる黒曜石片が出土した。 これらの発見は、アンデスとアマゾンの境界にある熱帯雲霧林地帯が形成期の地域間交流において重要な役割を果たしていたことを強く示唆するものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究は現在、当初の計画以上に進展している。2022年度に行ったチャウピヤク遺跡の発掘調査では、広場や部屋状構造物といった形成期の典型的な公共建築の痕跡や、山地と低地の伝統が入り混じった土器など、この地域がアンデス・アマゾン間の交流のフロンティアであったことを実際に示す証拠が豊富に得られた。また、発掘調査が想定以上にスムーズに進んだため、2022年度と2023年度の2シーズンかけて実施する予定であった発掘区域の調査を、1シーズン目でほぼ完了することができた。さらに、遺物の分析についても、十分な成果を得ることができた。これらの研究成果の一部は、すでに国際大会において発表を行っている。 また、このような研究進捗状況であるため、アンデス・アマゾン間の境界領域の動態を更に深く理解するために、2023年度には当初予定においては発掘と並行して小規模に行う予定であった踏査の範囲を広げ、研究を拡充する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度の調査は、ワヤガ・ウカヤリ川流域における広域踏査および試掘調査を中心として実施する。当初、2022年度と2023年度は同一の遺跡を継続して発掘する予定としていたが、2022年度の調査で想定以上の進捗があり、予定していた区域の調査がほぼ完了した。そのため今年度は、アンデス・アマゾン間の相互交流を更に面的に理解するために、これまで殆ど遺跡が見つかっていない当地域において広域的な遺跡分布調査を実施する。この調査は、共同研究者である現地考古学者・技師3名、考古学を学ぶ学生3名と協力して行う。 この地域では長らく遺跡が発見されてこなかったが、近年複数の場所で考古学遺跡の存在が報告されている。そのうちの一つはチャウピヤク遺跡のあるモンソン川流域であり、チャウピヤク遺跡と類似した遺跡の存在が複数確認されている。2023年度ではこれらの遺跡およびその周辺地域を、ドローンなどを用いて測量し、モンソン川流域のかつての土地利用の状況を詳細に明らかにする。 またワヤガ川上中流域やウカヤリ川流域では、近年の開発に伴い、複数の考古学遺跡が政府の公開する遺跡分布マップに登録されている。これらの遺跡のほとんどは学術的な視点からの観察が行われておらず、時期などの詳細が不明である。そのため2023年度では、これらの遺跡を網羅的に調査し、測量と試掘を組み合わせて行うことによって、当地域における遺跡分布の基礎的なデータを蓄積する。 2024年度には、これらの調査で得られた測量データを統合するとともに、より詳細な遺物分析を実施する。それにより、文明形成の初期におけるアンデス・アマゾン間交流の具体的な有様を明らかにするとともに、その交流が文明形成に果たした役割を実証的に理解する。
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