2023 Fiscal Year Research-status Report
エジプト初期文明形成期の儀器および奉納物からみた儀式活動の実態と拡散過程
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22K13240
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
竹野内 恵太 早稲田大学, 文学学術院, 講師(任期付) (30778684)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 神殿儀礼 / 供物儀礼 / 儀器 / 奉納物 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、既報告資料に基づく初期神殿出土(先王朝時代から初期王朝時代)の容器組成のデータ整理とその解釈を中心として研究を進めた。また、ヒエラコンポリス遺跡の初期神殿(HK29A)から出土した石製容器に関しては資料調査を終えたため、出土位置および年代観の考察を行ったうえで、先の既報告資料に基づく分析結果に位置づける作業を実施した。 その結果、原王朝時代以降に初期神殿における石製容器の器種の選択性がおおむね共通化し、その開始はヒエラコンポリス遺跡HK29Aの先王朝時代後半から原王朝時代初頭頃に求められる可能性を捉えた。同じく初期神殿から出土する儀礼用土器の選択性に関しても、ヘス壺および器台をはじめとした土器もまた、ヒエラコンポリスやアビドスなどエジプト南部で副葬および儀礼利用されたものが、第1王朝直前以降に北部でも共有するようになった可能性が高いことがわかった。よって、現時点では、ヒエラコンポリス遺跡において創出された神殿儀礼と使用容器の組成が、国家形成の社会的動態と並行するように、急速に北上していった可能性を検討している。また、出土容器と共伴する(あるいは同時代の)関連資料(人物像や動物骨、魚骨など)や図像資料も勘案することで、そうした神殿儀礼がエジプト全土で共有される背景についても考察を始めた。 さらに、墓前から出土した儀礼祭祀の痕跡も加味して神殿儀礼との関連性を検討し始めた。特に今年度は北サッカラ遺跡出土資料の調査に加え、既報告資料からは原王朝時代のタルカン遺跡、第1王朝の北サッカラ遺跡およびタルカン遺跡、アビドス遺跡の墓前出土土器の組成や出土位置を整理し、その儀礼行為の実態の再構築を実施した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ヒエラコンポリス初期神殿址出土資料については、HK29A出土資料整理は完了したものの、今年度は当該遺跡調査期間中に渡航がかなわなかったため、HK29Bの方は未だ着手していない。そのため、現在までの進捗状況はやや遅れているとした。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はこれまでの一次資料の調査および既報告資料の分析・考察を総合させ、先王朝時代から初期王朝時代にかけた神殿址・祭祀遺構出土の器物の様式化過程および神殿儀礼の形成過程に関して最終的な考察を行う。ただし、以上の過程はおおむね捉えつつあるものの、その背景については検討の余地がある。つまり、なぜ神殿儀礼が第1王朝頃にエジプト全土である程度共有されるようになったのかについては、出土容器の機能とそこからみた儀礼行為だけでなく、共伴する関連資料(人物像や動物骨、魚骨など)や図像資料とも併せて検討することで、その実態についてアプローチする。この作業は2023年度より開始したが、未だ途上であるため、今年度は集中して進めていく。 また、ヒエラコンポリス遺跡のもう一つの初期神殿(HK29B)の出土資料の調査は実施していないことから、当該遺跡の調査期間中に渡航可能であれば、2024年度に実施する予定である。
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