2022 Fiscal Year Research-status Report
ネパールにおける女性の集合的エンパワメントの比較研究ー州レベルにおける多様性
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22K13269
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
竹内 愛 南山大学, 人類学研究所, 研究員 (00804387)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 集合的エンパワメント / 女性自助組織 / ネワール民族 / タルー民族 / ジェンダー構造 / コミュニティ / 震災復興 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ネパールの地域ごと(ヒマラヤ地域、カトマンズ盆地、タライ地域)の女性エンパワメントの状況を解明することを目的としている。具体的には、それぞれの地域に設立されている女性自助組織の活動状況と女性のコミュニティとの関わり方、特に、コミュニティ災害復興にどのように関わっているのかを比較することによってその特徴を明らかにする。 本年度は、ネパールで2回文化人類学的フィールドワークを実施し、カトマンズ盆地のラリトプル市のネワール民族とタライ地域のバラトプル市とビラトナガル市のタルー民族の女性自助組織を訪問した。そして、それぞれの女性自助組織において、開発本来の経済的活動と派生的な活動の実態について調査を行った。 1回目の調査では、ラリトプル市内のネワール女性自助組織を訪れ、コミュニティにおける女性の役割がどのように変容しているか聞き取り調査を行った。調査で明らかになったことは、コミュニティのまとめ役を女性が担うようになったことも重要な変化であるが、特筆すべきことは、ヒンドゥー祭であるダサインのために1ヶ月間毎日楽器を奏でながら宗教歌を神に捧げるバジャンに女性たちが男性たちと共に参加をするようになり、宗教的な場面においてもジェンダー構造が変化している点である。これまで儀礼祭祀の場には女性は排除されてきたが、宗教的な解釈が変容していることが明らかとなった。 2回目の調査では、バラトプル市のタルー女性自助組織を訪れて女性自助組織の活動内容に関する調査を行った。そこでは、観光地である利点を生かして、女性たちはカゴや鍋敷きなどのものづくりを行い、販売を行ったり、民族舞踊ショーを行い、経済活動に重きを置いていた。一方、ビラトナガル市のタルー女性自助組織では、女性たちが情報交換を行ったり親睦活動することに意義を見出し、それによって社会的エンパワメントが果たされていることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究の初年度であり、これまで報告者が研究を継続してきたカトマンズ盆地のネワール民族の女性自助組織の活動について引き続き調査研究を続けながら、ネパール南部にあるタライ地域で、新たな調査対象のタルー民族の女性自助組織を一から探し、実態調査を行うことを目標としていた。 2022年5月の調査時には、カトマンズ盆地のネワール民族の女性自助組織の活動に特化して、ネワール社会における女性の役割の変容について解明することができた。そして、2023年3月には、タルー民族の女性自助組織に複数訪れて調査を行った。タルー民族の女性自助組織の内部の状況については聞き取り調査によって、明らかにすることができたが、タルー民族のカースト制度、ジェンダー構造などのコミュニティの特徴については今回のフィールドワークでは詳細までは調査を行うことができなかった。しかし、今回は、地域の全体的な把握はできたため、現在までの進捗状況としては、本研究はおおむね順調に進展しているものと判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、タライ地域のタルー民族の女性自助組織について調査を開始し、調査基盤ができたため、次年度以降は、タルー民族が最も重視する儀礼祭祀を参与観察する。具体的には、毎年春に行われるホリー祭と秋に行われるジティヤと呼ばれる祭の時期に合わせて現地調査を行い、儀礼祭祀に見られるジェンダー関係、そして、コミュニティの特徴についても明らかにしていきたい。また、これまで研究を継続してきたカトマンズ盆地のネワール民族の女性自助組織の活動についても引き続き調査を実施していく。 本研究課題では、ヒマラヤ地域における女性自助組織についても調査する必要があるため、2023年度には、ヒマラヤ地域での調査対象の選定をし、そこでの聞き取り調査と参与観察も開始していく予定である。 最後に、本研究のキーワードともなっている「集合的エンパワメント」論を構築するため、エンパワメント論について整理を行い、フィールドワークで得られた知見と照らし合わせていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、今年度のフィールドワークにおいて、計画よりも旅費が少なかったことと、謝金が発生しなかったことが大きいと言える。次年度使用額の使用計画としては、フィールドワークが広域(カトマンズ盆地、タライ地域、ヒマラヤ地域)に及ぶため、フィールドワークの計画を2回から3回に変更することで使用する。 具体的には、夏季長期休暇を利用して、ヒマラヤ地域の新たな調査地を訪れて、女性自助組織の実態を把握する。そして、秋のジティヤ祭の時期と春に行われるホリー祭の時期に、タライ地域のタルー民族のコミュニティの特徴を女性の役割に注目して調査を実施する。
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