2023 Fiscal Year Research-status Report
ネパールにおける女性の集合的エンパワメントの比較研究ー州レベルにおける多様性
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22K13269
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Research Institution | Nanzan University |
Principal Investigator |
竹内 愛 南山大学, 人類学研究所, 研究員 (00804387)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 女性自助組織 / コミュニティ / ジェンダー構造 / エンパワメント / 海外出稼ぎ / ネワール民族 / タルー民族 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はネパール、ジラバワニ市とビラトナガル市のタルー民族の女性自助組織とラリトプル市のネワール民族の女性自助組織を訪問し、それぞれの地域の自助組織の活動と女性のエンパワメント状況についてフィールドワークを実施した。 まず、ジラバワニ市の農村地域では多くのタルー民族が土地を持たず貧困状態であり、男性は出稼ぎに出て不在で、地域に残された老親と嫁は家畜の世話と小作人として働いている。多くの家庭では貧困のため、家族が病気になっても病院に行けない状況であり、子どもを学校に通わせず、農作業をさせている。上述のような地域では、NGOの外部主導型の女性自助組織が女性の経済的自立のために有効に機能している。自助組織では、NGO職員は女性メンバーに農業の合間にできる手仕事を教え、メンバーは各家庭で作品を作り、それをNGO職員に買い取ってもらい、家計を支えている。更に、女性たちはNGO職員に家族の病気の治療、経済問題等を相談しており、自助組織を家庭問題の相談窓口とも捉えていることが明らかになった。続いて、ビラトナガル市のタルー民族は、ジラバワニ市の事例とは異なり、土地持ちの農民が多く、全体的に教育率が高い特徴がある。ビラトナガル市の女性自助組織メンバーには教養のある女性が多く、製作した布バッグ、お香等の販売活動をしているが、家計を支えるためというよりは仲間との共同作業を楽しんでいる。 一方、ラリトプル市のネワール社会では、近年、海外出稼ぎ労働する若者が増えているため、地域に残された老親のために健康チェックを行ったり、高齢者デイサービスを始めた女性自助組織も出てきた。息子家族が海外生活しており、孫とのコミュニケーションが困難になる事例も発生しており、女性自助組織では、英会話教室を始めたり、子どもたちへネワール語の普及を始めたものもある。女性たちは家族・コミュニティのニーズに対応して活動している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、ネパールにおける女性の集合的エンパワメントの比較研究を研究課題としており、1、2年目を「フェーズ1」(広域調査)、3、4年目を「フェーズ2」(集約的調査)、「フェーズ3」(比較と分析)の3つの時期に区切って、研究を進めていく計画をしている。 本年度の研究は、「フェーズ1」の2年目にあたり、昨年度から調査を始めたビラトナガル市とジラバワニ市のタルー民族社会の女性自助組織の役割、女性の社会的地位、立場などを継続調査を行うことに重点を置いて研究を進めた。さらに、カトマンズ盆地に位置するラリトプル市のネワール民族の女性自助組織の活動事例についても継続して文化人類学的調査を行った。 本年度実施したフィールドワークでは、ビラトナガル市、ジラバワニ市、ラリトプル市の各コミュニティで女性たちからインタビューを継続し、それぞれの女性自助組織の活動、コミュニティにおける女性の地位、役割についての調査を深め、コミュニティの全体的な把握ができた。タル-社会の調査における今後の残された課題としては、タルー民族の伝統的な儀礼祭祀を参与観察し、儀礼祭祀に見られる男性と女性の役割、儀礼祭祀時期のコミュニティの状況に関する研究をすることであるが、今年度は、調査時期をタルー民族が最も重視する儀礼祭祀の時期に合わせることができなかったことで、伝統儀礼祭祀における女性の役割については今の所は調査ができていない。そのため、次年度以降に改めて調査地を訪れて再調査する予定である。 しかし、タルー民族の女性自助組織とネワール民族の女性自助組織の活動については聞き取り調査と参与観察によって全体的な把握はできたため、現在までの進捗状況としては、本研究はおおむね順調に進展しているものと判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、タルー民族とネワール民族の女性自助組織の活動事例を継続調査し、その特徴を明らかにした。特に、昨年度から調査を始めたタライ地域のタルー民族の女性自助組織については、NGO職員、地方行政の長、コミュニティの長、ソーシャルワーカーたちとも連携を取って、女性自助組織のメンバーたちとの信頼関係を築き、組織内部からだけではなく、外部とのネットワークについても調査し、全体的な把握をすることができた。本研究は、ネパールの地域ごと(ヒマラヤ地域、カトマンズ盆地、タライ地域)の女性エンパワメントの状況を解明することを目的としており、より広範な地域比較をする予定としている。ネパールのカトマンズ盆地、タライ地域の調査はおおよそ予定通りに研究が進んでいるが、ヒマラヤ地域での調査は進んでいない。そのため、2024年度は、ヒマラヤ地域のグルン民族社会調査を開始する計画をしている。ヒマラヤ地域で女性自助組織と関わるNGO職員とともにヒマラヤ地域のグルン民族の女性自助組織を訪れ、そこで女性たちから聞き取り調査を実施し、女性自助組織の活動の特徴を把握し、コミュニティにおける女性の地位、役割等の特徴を明らかにしたい。今までのところ、NGO職員からグルン民族の女性自助組織についてのデータについては入手しているので、2024年度は、地方行政、地元NGOとも連携を取って調査対象の女性自助組織の決定をし、現地に訪れて複数の女性自助組織に訪れて、女性たちの活動等について調査を進めていきたいと考えている。それと併行して、文献調査、そして、これまで研究をしてきたタルー民族、ネワール民族の女性自助組織についても継続的に調査を進めて、女性の集合的エンパワメントについての比較研究をしていきたい。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由としては、今年度の調査で、ネパールのタライ地域、カトマンズ地域、ヒマラヤ地域の3地域の女性自助組織の調査に行く計画をしていたが、調査協力者であるNGO職員との時間的な調整ができず、ヒマラヤ地域での調査が翌年への持ち越しとなり、そのため、今年度は、カトマンズ盆地とタライ地域のみに焦点を当てて女性自助組織の調査を実施したため、ヒマラヤ地域での調査協力者への謝礼金・交通費等が発生しなかったためである。そのため、2024年度に実施するネパールでのフィールドワークは、調査回数を当初の予定である2回から3回に増やして、これまで研究を進めているタライ地域、カトマンズ地域での調査に加え、ヒマラヤ地域の女性自助組織を訪れて文化人類学的フィールドワークをする計画であるため、そのヒマラヤ地域における調査費、調査協力者への謝礼金、交通費として使用予定である。
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Remarks |
竹内愛・亀井伸考「公開研究会『ネパールにおける国際的な出稼ぎと女性自助組織ミサ・プツァのコミュニティ内役割』開催報告」『共生の文化研究』18号、愛知県立大学多文化共生研究所、pp.205-206、2024年。
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