2022 Fiscal Year Research-status Report
契約責任法における損害算定論――実体的規範の確立と「契約」の役割の解明
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22K13306
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
林 耕平 北海道大学, 大学院法学研究科, 准教授 (40907250)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 契約責任 / 債務不履行 / 損害賠償 / 金銭的評価 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、契約責任法において損害の金銭的評価(算定)はどのように行われるべきかという問題について、損害論を分析視角とした検討を行うものである。2022年度は、この問題をめぐるドイツ法の議論を検討した。主たる検討対象は、以下の2点である。 第1に、抽象的損害計算(目的物の市場価格による算定)はどのように正当化されるのかという問題をめぐる議論を検討した。具体的には、20世紀初頭に形成された伝統的通説と、1930年代以降有力化した批判理論の間の見解の対立について、その立場の分かれ目がどこにあるのかを分析し、研究報告を行ったうえで、その成果の一部を公表した。この問題については損害論と密接に結びついた形で議論が展開されているため、この問題を検討することは、損害論に関する知見を獲得し、そしてその損害論をベースとして損害の金銭的評価に関する理論枠組みを構築していくうえで重要な意義を有している。 第2に、仮定的瑕疵除去費用の賠償は認められるべきか(例えば、請負人の仕事に瑕疵がある場合に、注文者は修補することなく修補費用の賠償を請求することができるか)という問題をめぐる議論を検討した。具体的には、請負の領域における2018年の連邦通常裁判所の判例変更について検討したうえで、売買の領域における2020年から2021年にかけての3件の判例(およびこれらの判例を踏まえた学説の議論)についても、調査・検討を開始している。この問題も、損害論と密接に関連するものであるため、第1の問題と同様の意味で検討の意義が認められる。また、従来日本においては仮定的瑕疵除去費用の賠償の可否について研究が手薄であったことから、この問題を検討することは、実践的にみても大きな意義を有している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度に予定していた研究作業は、契約責任法における損害の金銭的評価の問題をめぐるドイツ法の議論を検討することであったが、「研究実績の概要」欄で述べたとおり、その主要部分についてはすでに検討を終えており、また、その一部については成果の公表も完了している。 また、いまだ調査・検討の途上にあるものについても、準備を進めており、次年度に成果の公表を行う予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、引き続き、仮定的瑕疵除去費用の賠償をめぐるドイツ法の議論の調査・検討を進め、その成果を順次公表していく予定である。売買の領域における新しい判例の登場により議論がかなり活発化しているため、文献の調査・分析には相当程度時間を要すると見込まれるが、各種データベースを利用するなどしてできる限り早期に完了させたい。 以上の作業が終わり次第、損害算定論における「契約」の役割を明らかにするため、アメリカ法における損害算定論の調査・検討に着手する予定である。
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Causes of Carryover |
経費の節減・効率的使用により、少額の残高が発生している。この残額については、契約責任法関係の研究書を購入するための費用に充当して、次年度の比較的早い段階に使用する予定である。
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