2023 Fiscal Year Research-status Report
企業の政治活動に関する複合的規制とコンシューマー・シティズンシップの機能
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22K13335
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
松尾 隆佑 宮崎大学, 研究・産学地域連携推進機構, 講師 (20873326)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 政治理論 / 資本主義 / 企業の政治活動 / コンシューマー・シティズンシップ / 政治的消費 / 倫理的消費 / 政治リテラシー / 政治教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目となる2023年度は、主に倫理的・政治的な消費行動の意義や実態の解明、市民が労働や消費の場で政治参加を行うために必要なリテラシーの探究に取り組んだ。また、あるべき規制の全体像を描き出す作業にも着手した。さらに、隣接分野の研究者と組織した非国家的政治研究会での活動を活発に行い、国家を中心にして政治を語りがちな現在の政治学における本研究の位置づけを明確化することにも注力した。 ボイコット(不買運動)やバイコット(購買運動)などの倫理的・政治的消費は、消費者が市民として企業の規制に関与するために利用できる主要な手段である。しかし立法原型説によれば、市場を介して社会変革を実現しようとする市場アクティヴィズムが何の制約もなく行われれば、リベラルで民主的な社会において不可欠な手続的価値との衝突が生じうるため、倫理的・政治的消費はごく限定的にしか正当化できないとされる。これに対して本研究は、民主的な政治過程に関する偏狭な理解を採用している立法原型説の問題性を示し、手続的価値を尊重しつつも非理想的な状況下における倫理的・政治的消費の役割を認める抑制的自警主義の立場を提起することで、リベラル・デモクラシーの下で許容可能な倫理的・政治的消費の姿を描き出した。 また、本研究は市民が職場デモクラシーや倫理的・政治的消費を通じて企業権力のコントロールに参加できると想定するが、こうした広義の政治参加を拡大するには、政治リテラシーの再解釈も必要である。従来の政治リテラシー論は選挙中心・制度中心の狭い政治理解に依拠しがちだったが、市民の自己統治にとって不可欠な経済的主体性を支える知識・技能の習得を促す点では、労働者教育や消費者教育も広義の政治教育の一部だと考えられる。このような日常生活における政治リテラシーの提起は、日本の主権者教育のあり方にも反省を迫るものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
倫理的・政治的消費や政治リテラシーに関する研究を順調に進め、その成果を公刊することができた。また、前年度に進めていた政治資金制度に関する研究の成果を発表することができた。このため、3年目に予定していた成果の総合作業も既に一定程度進められており、非国家的政治研究会における活動などの関連作業にも取り組むことができた。以上から当初の計画よりも進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度は計画通り、これまでの成果を総合して、企業の政治活動に関する複合的規制の全体像を描き出す著書の執筆に取り組む。また、非国家的政治研究会において他の研究者と重ねてきた議論を論文集として刊行する予定であり、その過程で、国家ではなく企業を主題に据えた本研究が政治学において持ちうる意義をより明確化したいと考えている。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響や研究会活動のオンライン化が進んだことなどによって旅費が抑制され、次年度使用額が生じた。非国家的政治研究会における活動の成果を論文集にまとめる予定であるため、その出版に要する費用に充当したい。
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Research Products
(4 results)