2023 Fiscal Year Research-status Report
EU危機の起源としての欧州統合の南方拡大と地中海の安全保障問題
Project/Area Number |
22K13357
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Research Institution | National Institute for Defense Studies |
Principal Investigator |
伊藤 頌文 防衛研究所, 戦史研究センター, 研究員 (60934932)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 国際関係史 / 外交史 / 冷戦 / 安全保障 / 地中海 |
Outline of Annual Research Achievements |
2年目にあたる2023年度は、前年度に引き続き1980年代におけるヨーロッパ冷戦の展開を念頭に地中海の安全保障をめぐる諸問題を考察した。とりわけ、欧州共同体(EC)の南方拡大や北大西洋条約機構(NATO)の結束をめぐって、民主主義や法の支配といった普遍的価値が「触媒」として及ぼした影響の析出を試みた。その成果として、防衛省防衛研究所の学術誌『安全保障戦略研究』に査読論文として「西欧安全保障における「包括化」の胎動と普遍的価値:1970~80年代の地中海情勢を焦点に」を発表することができた。 また、2023年度は1970年代中葉の事象、具体的には南欧3か国(ギリシャ、ポルトガル、スペイン)の民主化をめぐる西欧国際関係を、安全保障の側面から実証的に検討した。その結果、それぞれ劇的な形で民主化の機運が高まり、政治的な安定を模索する南欧3か国をめぐって、関係各国及びNATOやECといった国際機構が政治経済に加えて安全保障の観点からも危機感をもっていた様相が明らかになった。その成果の一部は上記の査読論文に組み込まれるなど、本研究の対象時期を横断する形で活用することができた。 国際会議での発表としては、トルコ・イスタンブールで開催された第48回軍事史国際会議において、本研究の内容を盛り込みつつ地中海を舞台に20世紀を通観して論じ、多くのコメント・質問を得ることができ、さらなる精緻化の資となった。加えて、本研究と問題意識を通底する越境的な事象を扱う国内研究会にも参加し、隣接する諸分野の最新の知見に触れることができた。海外での史料調査としては欧州連合歴史文書館を訪問し、当該期の欧州統合・西欧国際関係の史料を広範に収集する機会にも恵まれた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2023年度は、前年度に続いて先行研究を幅広く渉猟して分析するとともに、一次史料の収集と読み込みを継続的に進めたほか、前年度の研究成果を基に学術誌への論文投稿と刊行を実現した。当該論文は本研究の全体像を概説的に提示するものであり、今後の研究遂行に際しても参照軸として立ち返ることができると思われる。 二次文献は、本研究に直接関係するテーマの文献のみならず、隣接する諸領域の研究書を広範に渉猟し、様々な形で分野横断的な示唆を得た。一次史料についても前年度に引き続き公刊史料集及びオンラインで入手可能な史料を読み込み、1970年代から80年代の西欧安全保障をめぐる論点や認識を検討した。また、当該期の欧州統合及び周辺領域の基礎史料として、欧州連合歴史文書館での史料調査を実施し、本研究の対象時期における広範な文書群を調査・収集を実施することができた。さらに、本研究と問題意識が重なる境界研究の国内研究会に参加し、参加者との活発な意見交換を通じて分野横断的な知見を得る機会にも恵まれた。 2023年度の具体的な研究成果として、防衛省防衛研究所の学術誌『安全保障戦略研究』に査読論文「西欧安全保障における「包括化」の胎動と普遍的価値:1970~80年代の地中海情勢を焦点に」が掲載された。また第48回軍事史国際会議(トルコ・イスタンブール)において、地中海の20世紀を通観するなかで冷戦期を扱う本研究の内容を盛り込んだ研究報告も実施し、同会議の論文集に採録される予定である。以上の研究成果を踏まえて、時期や分野を横断しつつ、本研究の射程をより広げることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度にあたる2024年度は、引き続き南欧3か国の民主化及びEC加盟問題と欧州統合の南方拡大のプロセスを、安全保障問題との連動という視点から包括的に考察し、研究成果の発表に注力しつつ、並行して一次史料及び二次文献の調査と読み込み、史料調査も適宜実施する。 二次文献は、直接的な先行研究に加えて、これに関連する諸テーマについても幅広く目を通すことで、より広い射程で本研究の学術的意義を導出したい。一次史料は、2022・2023年度と同様に、各国の公刊史料集及びオンラインで入手可能な文書群に継続的に目を通しつつ、これまで収集してきた未公刊史料の分析も進める。海外での史料調査も、必要に応じて適宜実施したいと考えている。 研究成果の発表も引き続き積極的に実施する。年度前半に国内研究会での研究報告を予定しており、そこで得られたコメントを踏まえて内容をさらに精緻化し、学会誌等への投稿も進める。日本語のみならず国際的な査読誌への投稿も目指したい。
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Causes of Carryover |
海外史料収集の実施時期が年度末であり、燃料費の高騰等もあって旅費が想定を超えて変動する可能性があったため、同じく年度末に支出を予定していた図書の購入が繰り越しとなった。2024年度に図書の購入の準備を進めている。
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