2022 Fiscal Year Research-status Report
人工知能を用いた派生証券価格の効率的算出手法の研究
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22K13436
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Research Institution | Kanagawa University |
Principal Investigator |
舟橋 秀治 神奈川大学, 経済学部, 准教授 (40884383)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2024-03-31
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Keywords | 人工神経回路網 / 人工知能 / デリバティブ / SABRモデル / 確率ボラティリティモデル |
Outline of Annual Research Achievements |
金融市場を記述する上で不可欠な確率ボラティリティモデルとその影響を織り込んだ派生証券の価格付けには,モンテカルロ法や有限差分法に代表される数値計算法や漸近展開や特異摂動法などの近似手法が用いられてきた.しかし,前者は膨大な計算時間とリソースを要し,後者は満期が長く原資産のボラティリティが高い派生証券では近似精度が著しく劣化するなど,金融実務の足枷となってきた.Funahashi(2021)において,人工神経回路網(ANN)と漸近展開法を組み合わせることで,派生証券の新しい評価手法を開発し,従来の手法に比べて高速かつ高い精度で派生証券価格を計算することを可能にした. 令和4年度は,本手法と特異摂動法を組み合わせ,実務上重要なSABRモデルへと応用し,従来のANNでの学習と比較して,学習データ数を10~1000分の1に減らしても,派生証券価格を安定的に推定することを証明した.これにより,従来のANNを用いた派生証券価格の推定に比べて,学習データの生成や学習にかかる時間を大幅に短縮すると同時に,学習及び予測の精度も向上させることに成功した.また,実務で用いられているSABRモデルの近似解はwing(ディープ・インザ(アウト・オブザ)・マネー)において,近似の精度が劣化することが問題となっていたが,本手法を用いることで,wingの正確な計算が可能になった.これらの研究成果はQuantitative Finance誌に掲載された. さらに,確率ボラティリティモデルの下では,解析解のみならず,派生証券価格の近似解すら得られないことも多い.そこで,本手法を発展させ,複雑な確率過程の下での派生証券価格を直接ANNに学ばせるのではなく,解析解の知られている確率過程の下での派生証券価格との差を学習させることで,学習データを大幅に圧縮すると同時に,予測の精度を向上させる手法を確立した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和4年度は,派生証券の価格付けにおいて金融実務で広く使われているSABRモデルに本手法を適用することを目標としていたが,負金利に対応したfree boundary SABRモデルを含め,本手法の有用性を示すことができた.これらの研究成果は国際学術誌(査読つき)に掲載された. また,来期には,解析解や効率的な近似解が得られないような複雑な確率過程の下での派生証券の価格付けに対して,本手法を応用することを予定していたが,本年度中に,そのような派生証券価格に対しても適用可能な新しい評価方法を確立し,数値実験を通して,その有用性を証明した.現在は研究成果を論文にまとめている.この点は,当初想定していたよりも進捗が速い. 一方,得られた結果を積極的に海外の学会等で発表することを予定していたが,新型コロナ感染症の感染が拡大したこともあり,海外への渡航を控えざるを得ず,想定していた成果は上げられなかった.その点は,マイナスして上記の評価とした.
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Strategy for Future Research Activity |
前述の2つ目の研究テーマについては,得られた研究結果を論文にまとめ執筆し,国際学術誌に投稿する予定である.今後は本手法のフラクショナル確率ボラティリティモデルへの拡張や市場への効率的なキャリブレーション手法の確立などについても議論を深めていきたい.また,これまでに構築した計算手法は,ファイナンスに限らず広く一般に適用可能な手法であるから,新しいテーマを模索しそれらを対象に研究を実施したい.
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Causes of Carryover |
今年度は,新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響で,国外での発表を自粛したこと,国内でも主にオンラインでのワークショップに参加するなどしたことから,予定していた旅費が大幅に削減されたが,次年度に購入を予定している数値計算用のグラフィックボードの価格が高騰しているので,その分の購入費用として使用することとした.また,データ解析に必要なデータが入手できたため,その分を来年度のデータ購入費用として使用する.
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