2022 Fiscal Year Research-status Report
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22K13440
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Research Institution | Meiji University |
Principal Investigator |
井上 達樹 明治大学, 商学部, 専任講師 (10876626)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 経済史 / 計量経済史 / 近代日本 / 乳児死亡率 / 工業化 / 石炭消費 / 煤煙 / 大気汚染 |
Outline of Annual Research Achievements |
プロジェクトの第一年度である本年度は、次年度以降に行う統計解析のために必要なデータ・ベースの構築並びに史料分析による歴史的背景の把握に重点を置いた。第一に、農商務統計表や日本帝国人口動態統計、府県統計書などの様々な史料に記載された情報を電子データ化し接合することで、統計解析に利用可能な1899年から1910年にかけての県別パネル・データを作成した。このデータ・ベースは、乳児死亡率や石炭消費量、工場数や工場労働者数といった本研究課題において核となる変数だけでなく、県の発展度合いや公衆衛生の水準などの県の重要な属性を表す多くの変数を含んでおり、次年度以降の歴史データ分析が高い水準で実施可能となっている。第二に、当時の石炭利用に関する複数の記述史料を収集・調査することで正確な史実の把握に努めた。加えて、数は限られているものの、大気汚染に関する歴史史料についても調査した。構築したデータ・ベースと歴史史料に記された史実との整合性の確認を通じて、今後行う統計解析の妥当性を歴史的な観点から検証した。さらに、こうした史料調査により、明治時代末期における石炭消費と大気汚染、健康問題の関係についての定性的な分析を行った。その結果、石炭の大量消費による大気汚染が乳児死亡率を増加させたという本研究課題の仮説の妥当性が確認された。また、構築したデータ・ベースを用いた予備的な解析からも、本研究課題の仮説と整合的な結果が得られている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画通り、歴史統計情報の電子化によるデータ・ベースの構築、そして記述史料の収集と分析を完了することができた。また、次年度に行う統計解析の見通しも立っており、予備的な解析も行うことができた。以上から、本年度の研究の進捗状況は、計画にしたがい順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は順調に進展したため、次年度も当初の予定通り、史実に基づいた統計解析モデルの構築や本年度に構築したデータ・ベースを用いた計量分析を中心に活動を進める。これにより、工業化による石炭の大量消費がもたらした大気汚染が乳児死亡率に与えた影響を分析していく。また、適宜新しい記述史料の収集・調査を進め、分析結果の妥当性を歴史史料からも検証する。得られた研究成果は、国内外の学会・研究集会で報告し、質の向上に努める予定である。
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Causes of Carryover |
新型コロナウイルス感染症の影響により人件費並びに研究成果の報告に関連する研究費使用について、予定と齟齬が生じたため。次年度は上記の点を進める計画である。
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