2022 Fiscal Year Research-status Report
Revisiting the "Three Sacred Treasures" of Japanese management and employee voice: The context of portfolio employment system.
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22K13470
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Research Institution | Fukushima University |
Principal Investigator |
金 善照 福島大学, 経済経営学類, 准教授 (00880882)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 従業員の発言 / 中途社員 / 日本的経営 / 学際的アプローチ / ウェブ追跡調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請時点の【研究の概要】に基づき、2022年度は、日本的経営の「三種の神器」と関わる転職先の人事施策が中途社員の向社会的発言(prosocial voice)に及ぼす効果を分析した。具体的には、中途社員が知覚する転職先での社会心理学的ステータス(「転職先のインクルージョン認識」)が向社会的発言に及ぼす効果を「(発言後の)イメージアウトカムの予想」(expected image outcomes)の観点から実証を行った。その結果、「転職先のインクルージョン認識」の構成要素である「業務情報のアクセス」、「意思決定影響力」、「雇用の安定性」は、「イメージゲインの予想」と「イメージリスクの予想」を通じ、「向社会的発言」に有意な効果を及ぼすことが明らかになった。 本研究の含意は二つである。 第1に、内部労働市場論に基づいた人事施策が新卒一括採用出身の長期勤続者だけではなく、中途随時採用出身の新入社員の発言行動にも有効であることを実証した。今までの従業員の発言論は、内部労働市場出身の従業員に焦点を当てていたが、本研究の分析結果は外部労働市場出身の従業員にも適用される学説であることを示唆する。 第2に、内部労働市場論に基づいた人事施策は、中途社員本人が社会心理学的意味で自分を内集団の一員(「インサイダー」)であると認識させ、そのステータスに相応しい協力行動を示す効果があることを実証した。今までの従業員の発言論は、内部労働市場のメリットを賃金、福利厚生、雇用期間などの経済的要因として説明してきた。しかし、本研究の分析結果は内部労働市場のメリットにはプライド、所属感、自己効力感などの心理的要因も含まれることを示唆する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究実施計画によると、2022年度はウェブ調査を設計し、調査を実施する予定であった。しかし、調査時期を1年延長することになった。つまり、2022年度の研究結果は報告者の博士学位論文で使用された2017,2018,2019年の調査データを分析したものである。1年延長することになった理由は、ウェブ調査にあたって、予備調査を行った結果、約30%の回答者が在宅勤務中であることがわかったからである。 次の3点を考慮し、調査を1年延長することになった。 第1に、在宅勤務下の従業員の発言は、対面状況でのコミュニケーションを前提とする従来の従業員の発言論とは別の研究テーマになる恐れがある。つまり、研究計画に大幅の修正を要する可能性がある。第2に、2023年度は出社勤務が増える見込みである。具体的に、2022年9月厚生労働省の「Withコロナに向けた政策の考え方」の発表後、在宅勤務から出社勤務に切り替える企業が増えている。第3に、在宅勤務が中途社員の発言行動に及ぼす影響を考慮した研究デザインを設計する時間が必要である。 以上を考慮し、ウェブ調査は2023年度に実施する。そして、調査時期の延長が研究実績に影響を及ぼさないよう、2023年度と2024年度の研究課題の一部を2022年度に実施した。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は国際学術雑誌(SSCI収録誌)に投稿することを目指している。そして、本研究の新規性は、組織行動学・人的資源管理論・雇用関係論による学際的アプローチにある。この点を踏まえると、本研究を国際学術雑誌に掲載するためには下記の2つの課題が残されている。 第1に、日本的経営論における本研究の位置づけの課題が残されている。日本的経営論を代表する研究テーマとして従業員の発言論は、既に多数の研究が国際学術雑誌に載せられている。そして、従業員の発言の意味・形式・主体も研究によって様々である。本研究を国際学術雑誌に掲載するためには、本研究がどのような研究の後続研究に当たるものなのかを確定し、その必要性を説明する必要がある。要するに、理論的関連性(theoretical relevance)に関わる課題である。 第2に、従業員の発言論における本研究の位置づけの課題が残されている。従業員の発言に関する研究は組織行動学・人的資源管理論・雇用関係論などの学問分野によって独自的に理論化がなされてきた。最近、従業員の発言論における学際的統合の必要性が論じられているものの、その実証はなされていない。本研究を国際学術雑誌に掲載するためには、学際的アプローチの具体的な意味を確定し、その必要性を説明する必要がある。要するに、理論的重要性(theoretical importance)に関わる課題である。 以上の課題は研究の理論的構築(theory building)と関わる問題である。具体的には、第1の課題は非英語圏の研究者が直面する"liability of foreignness"の問題であり、第2の課題は若手の研究者が直面する"liability of newness"の問題であると考えられる。緻密な文献レビューを通じ、国際学術雑誌に掲載できる質の高い研究を目指したい。
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