2023 Fiscal Year Research-status Report
社会学における職業概念の歴史的研究:方法史と理論史の両面から
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22K13534
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
武岡 暢 立命館大学, 産業社会学部, 准教授 (90783374)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | ロバート・K・マートン / アスピレーション / 社会調査史 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は社会科学における「職業」概念の整備を目的として、とりわけ社会学の1950年代前後の研究史を、理論史と方法史の両面から跡付けようとするものである。2023年度の前半は、年度後半からの在外研究に向けた準備に費やされた。在外研究はコロンビア大学図書館内にあるRare Script and Manuscript Libraryに所蔵されているロバート・K・マートンのアーカイブを探索することが主な目的であり、日本国内でできる準備として、すでに公刊されているマートンの業績から周辺情報を探索することがあった。本研究と関連が深いのはマートンの膨大なアーカイブのなかでも特にアスピレーション調査であると考えられる。前年度(2022年度)の実績からは、マートンがアスピレーション調査を、自身の著名な「社会構造とアノミー」論文を下敷きに構想していたことが分かっていた。そのため、「社会構造とアノミー」論文を中心として、アスピレーション概念がどのようにマートンの研究課題に導入されたのかが探究されるべき点として浮かび上がってくる。というのも、社会学の世界でアスピレーション概念を用いることが一般化したのは、社会階層研究におけるいわゆるウィスコンシン学派、わけてもWilliam H. Sewellほかの1969年論文以降のことである、というのが通常の認識である。マートンのアスピレーション調査(1950-1)や「アノミー」論文(1938)はウィスコンシン学派にかなり先立ってアスピレーション概念を焦点化していたことになる。実はマートンは1938年論文の時点ですでにクルト・レヴィンの独語文献をはじめとする心理学の領域を参照してアスピレーション概念を用いていた。この間の事情を詳らかにすべく年度後半はアーカイブ調査を実施したが、マートンの悪筆もあり、目立った発見には至っていない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アスピレーション概念の由来や、心理学への参照などにたどり着いたことは大きな進展だったと言える。とりわけ、マートンの「社会心理学」との関わりは、日本における社会学と社会心理学との関係とパラレルに捉えられる部分もあり、より掘り下げてみる価値がある主題である。1950年代から60年代は、日米いずれにおいても社会学と社会心理学がそれまで以上に明確に分離し、分業と専門化を進めていった時期に当たる。本研究課題にとって「職業への意味づけ」は最も中心的な概念のひとつであるが、現代においてこれを探究している主たる学問分野は産業心理学や組織心理学といった心理学系のそれなのである。1950年代にはマートンだけでなく、アメリカの職業社会学の代表的人物として知られるエヴェレット・ヒューズもまた、自身の仕事の一部を「職業の社会心理学」として捉えていた。さらにさかのぼれば1940年代の日本において『職業社会学』を著した尾高邦雄が主たる参照先のひとつとして産業心理学に依拠していたことも見落とせない。 研究主題のこうした文脈化は上首尾に進行しているが、アーカイブ調査ではマートンのこの間の関心を跡付ける資料は今のところ発見できていない。
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Strategy for Future Research Activity |
マートンがアスピレーション調査の下敷きにしたのは自身の論文「社会構造とアノミー」(1938)である。「社会構造とアノミー」ではすでにアスピレーション概念が心理学において蓄積のある主題として参照されている。この論文はマートンの出世作として、そして社会学において最もよく引用されてきた論文として知られているが、少なくとも2つのバージョン(1938, 1949)があり、またこの論文を所収した『社会理論と社会構造』は少なくとも3つのバージョン(1949, 1957, 1968)がある。これらのバージョンは1950-51年のアスピレーション調査と前後していることから、これら各版の書誌学的な比較作業がまず基本的、かつ堅実な研究の推進方策として検討されてよい。
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Causes of Carryover |
書籍の購入が当初の想定よりも低予算で済んだことにより、次年度使用額が生じた。2024年度にはPCを購入する予定があるため、次年度使用額はそちらに充当する計画である。
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