2022 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
22K13543
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Research Institution | Fukuoka Prefectural University |
Principal Investigator |
黒川 すみれ 福岡県立大学, 人間社会学部, 講師 (10883431)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 職業キャリア / 系列分析 / 女性の就業 / ライフコース |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は職業経歴データの分析に応用する系列分析の手法について、主に国外で蓄積された方法論的研究の整理と、就業継続を阻む職場の環境的要因に関する男女比較分析を実施した。 一点目は、系列分析を社会科学領域に応用してきた歴史と、方法論的視点から手法の適用範囲を論じたAndrew Abbottの研究を中心に概観した。社会学研究の中には、出来事や行動を時間的文脈の中で捉えるシークエンス問題を中心に据えた領域があり、ライフコース研究やキャリア研究はその代表例となる。系列分析が用いられる分析対象や領域では、これまでに生存時間分析やイベントヒストリー分析などの手法が適用されてきたが、既存の手法とは分析の前提が異なることが系列分性の特徴として挙げられる。既存の手法を用いる場合、研究の関心がイベントのトランジションにあり、生起するイベントが事前に明確である一方で、系列分析はどんなトランジションがあるか、そのパターンがどれほどあるかは明らかになっていない。そのためパターンの記述を目的としているという手法の方法論的前提を整理した。 二点目は、「民事紛争全国調査2016-2020」プロジェクトで実施された「2017年紛争経験調査」のデータを使用し、職場や働き方をめぐる個別労働紛争の分析を行った。男性は勤務時間や人事異動などの労働条件をめぐるトラブルを重大な個別労働紛争として経験しやすく、女性はハラスメントなどのいやがらせが重大な紛争となりやすい傾向があることを明らかにした。また、これらのトラブル起因の休職・退職経験率が男性は低く、女性は高い。このことから、男性においては現在の職場から簡単には離脱できない状況で紛争に対応せざるをえなくなっていること、女性においては職場にトラブルの潜在的要因が多いためにさまざまなトラブルを経験しやすくなっていることを指摘した。この研究成果は2023年3月に公表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
職業経歴の分析に応用する系列分析の方法論的議論をおさえ、本研究における手法の適用範囲の適性や理論的意義を確認することができた。また、職歴データを用いた実際の分析は既に実施し、成果の報告も行っており、分析にあたっての技術的課題もクリアしている。また、女性就業に関する研究という面では、就業中断をもたらしうる職場の環境的要因の分析も行い、本年度の新たな成果として公表することができ、順調に進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、系列分析を手法として用いている国内の研究者と研究会を立ち上げ、代表者として研究会の運営にあたる予定である。系列分析の手法に関する最新の情報や、さまざまな領域における(系列分析を用いた)研究成果や知見を共有する環境を整えている。具体的には、これまで使用していたデータ(「職業キャリアと働き方に関するアンケート」(労働政策研究・研修機構)、「東大社研・若年パネル調査」「東大社研・壮年パネル調査」(東京大学社会科学研究所))をもとに、系列分析の手法の一つであるマルチチャネル分析の適用を新たに試みる。主に女性の職業経歴と、家族経歴の2つの視点からのキャリア類型に取り組む。
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