2022 Fiscal Year Research-status Report
N・ルーマンによる〈近代化と宗教〉をめぐる論究の社会学説史的意義の解明
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22K13546
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Research Institution | Mie University |
Principal Investigator |
畠中 茉莉子 三重大学, 人文学部, 講師 (60910685)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | ルーマン / 宗教 / 近代化 / 機能分化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は〈近代化と宗教〉の関係をめぐるニクラス・ルーマンの論究に着目し、彼が提起した課題をドイツ社会学説史の文脈から明らかにするものである。ドイツにおいては〈近代化と宗教〉をめぐる問いは何よりもM・ヴェーバーの強い影響下において議論されている。ただし、その場合のルーマンの宗教社会学についての評価については、必ずしも明確になっているとは言い難い。本研究の実施計画においては、そうした議論を展開した論者としてまずN・ボルツに着目することにした。彼は自身の議論がルーマンに依拠していることを明言しており、その観点からヴェーバーの提起した〈脱呪術化〉の問題について論じているからである。 ところが、ボルツの業績を精査していくと、彼のルーマン解釈については〈近代化と宗教〉をめぐる決定的な論点について、議論の余地があることがわかった。それはルーマンのいう社会の機能分化をすでに完了した事態であると見るか、あるいは未完の過程として見るかという問題である。ボルツは宗教を論じるにあたって、社会の機能分化をすでに完了した事態として取扱っている。つまりヴェーバーのいう価値領域がすでに独立の過程を迎えたことを前提としている。しかし、申請者はこれまでの研究により、宗教に関してはルーマンの議論が必ずしも機能分化の完了を明示してはいないと考えている。そのため、ボルツとは異なり、宗教の機能分化の完了を前提としない形でルーマンの議論を取り上げている他の論者についての調査を行うことにした。その結果、M・ポーリッヒ、B・シュリーベンらのように、申請者と同様、機能分化の完了を自明とせずに〈近代化と宗教〉の関係を、ルーマン的なコミュニケーション論の視点を取り入れて分析しようとしている論者が見られることを確認した。今後はボルツの対比項として、彼らの業績についての調査を進めていきたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画どおり、ボルツにおけるルーマンの宗教社会学の解釈について精査する過程は順調に進んできたといえる。その一方で、ルーマンの議論を評価するにあたり、ボルツのような立場の対比項と見なしうる論者が複数名、新たに確認できる結果となった。それにより、調査すべき対象文献の範囲が拡大できたことは大きな成果といえる。その中で、そうした著作の中には、社会学領域以外の分野の著者によるものも多く見られることがわかった。例えば歴史学者による研究、特に中世から近代への移行期にあたる近世における時代における宗教やそれをめぐる人々のコミュニケーションの様態に関する著作などがそれにあたる。そのために、当初の予定よりも文献調査に多くの時間を割かざるをえなくなった。もっとも、それと同時に、現在のドイツ宗教社会学の状況をめぐって指摘されている問題点が浮き彫りとなってきた。そのため、今年度の調査の中では、本研究を今後進めていくうえで看過することのできない重要な論点を発見できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究はルーマンの宗教社会学の社会学説史的な意義を明らかにすることが目的であり、現時点においてもその点については変更の予定はない。ただし、〈近代化と宗教〉という問題をめぐるルーマンの議論の学説史的な評価を行う場合、社会学の学問的な隣接領域、すなわち歴史学や民俗学の動向との関連を把握することが当初想定していたよりもいっそう肝要となってくることがわかった。そのため、次年度以降の研究を行うにあたっては、そうした隣接領域と社会学説の影響関係を踏まえながら考察を行う必要がある。 この点については、例えばH・ファーシンクが、現代ドイツにおける宗教社会学が社会学のサブディシプリンとして研究の手法や対象を限定されてしまっているという状況と、フランスにおいて人類学や宗教心理学、宗教史との融合を経たうえで展開されている広義の宗教社会学が迎えている状況の相違についての問いを提起している。この指摘は本研究にとっては注目に値するものである。 申請者は初年度の調査結果に基づき、関連分野の動向も念頭に置きつつ、N・ボルツのルーマン解釈についての論究を続ける予定である。その次の段階としては、当初の計画のとおりH・ティレルにおけるヴェーバーとルーマンの対比についての議論を分析することを予定している。ティレルは先のファーシンクの指摘を踏まえたうえで自身の議論を展開していると想定されるため、今後も計画で示した段階を踏まえて本研究を進めていきたいと考えている。ただし、今後の調査の結果によっては新たにドイツ以外の国の動向を踏まえる必要が出てくるため、その後の計画には変更を加えた形で進める可能性もある。
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Causes of Carryover |
今年度、申請者は所属機関の変更のため、研究のために自由に利用できる書籍の内容が大幅に変動した。そのため、当初の予定を変更し、直接経費のうちの大部分を書籍の購入に費やさざるをえなくなった。直接経費の使用に大きな変更が出ているのはそのためである。次年度使用額は、今年度に実施できなかった調査の旅費や人件費のために使用したいと考えている。
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