2022 Fiscal Year Research-status Report
Historical study on the protection and rehabilitation of prisoners with physical and mental disabilities in the prewar period
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22K13565
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Research Institution | Japan Women's University |
Principal Investigator |
末松 惠 日本女子大学, 人間社会学部, 研究員 (90844704)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2027-03-31
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Keywords | 免囚保護事業 / 刑余者 / 不具廃疾者 / 原胤明 / 寺永法専 / 輔成会 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、戦前期における心身に障害のある免囚者の保護と更生にかかわる実態を解明することを目的とし、(1)戦前期の免囚保護事業における「不具廃疾」の刑余者に対する保護に関する取り組みを明らかにする、(2)心身に障害のある刑余者の出所後の地域生活及び保護に関する取り組みを明らかにする、の二つの課題を設定している。2022年度は主に(1)の課題に注力し、高齢や病気・障害などのために生活困難となった免囚者に対する保護が、いつ頃どのように始まり、拡大・変容していったのかを解明するとともにその要因について分析した。その結果、「不具廃疾」者は明治20年代の別房留置制度における神経症や身体虚弱者の長期収容の実態からその存在が認識されていったことが分かった。明治後期になると、別房留置制度の廃止と恩典出獄者への対応を契機として、宗教者を中心とした保護活動が盛んとなり、その経過において「不具廃疾」者の刑余者への保護が拡大していったことが確認できた。とりわけ先覚的にこの分野を担ったのは、東京出獄人保護所(原胤明)及び寺永慈恵院(寺永法専)であり、北海道集治監における過酷な囚人労働により心身に障害を負った者への救貧的な援助がなされていたことが分かった。大正期に入ると、保護会活動の興隆とともに事業の目的や成績・運営等をめぐって「不具廃疾」者への処遇が課題視されるようになり、彼らの労働能力や就業への意思にかかわって「不具廃疾」者は病院や養育院等へ収容すべきであると主張されるようになった。しかしながら、救護施設への委託は拒絶される状況にあり、心身に障害のある免囚者への保護は進展しなかったことが明らかとなった。「不具廃疾」の刑余者の保護をめぐる考え方の変遷に関し、①保護事業における「救貧」から「更生」への役割純化、②被保護者の労働能力及び就業意思の重視、③明治~大正期にかけての「良民」概念の拡大の3点を指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、戦前期における心身に障害のある免囚者の保護と更生にかかわる実態を解明することを目的とし、(1)戦前期の免囚保護事業における「不具廃疾」の刑余者に対する保護に関する取り組み、(2)心身に障害のある刑余者の出所後の地域生活及び保護に関する取り組み、の二つの課題を設定している。 2022年度は、主に(1)の課題に注力し、研究を進展させることができた(上記「研究実績の概要」にその内容を記した)。但し、①史資料の検討範囲の狭さ、②研究の対象期間の限定性が課題として指摘されるところであり、今後さらに継続して追究していく必要があると考える。 また、(2)の「心身に障害のある刑余者の出所後の地域生活と保護にかかわる取り組み」に関しては、現在、関連する諸資料の選定と分類作業をすすめているところである。作業状況については、新型ウイルスの感染対策が緩和される中で、資料収集の工程が従来の状況に戻りつつあると同時に、昨年、国会図書館のデジタルアーカイブが個人向けにも開示されるようになったことから、一次資料の探索が格段にすすめやすくなってきているという実感がある。引き続き史資料へのアプローチを続けるとともに、論文構成作業にも着手できるようにしていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、引き続き、戦前期における心身に障害のある免囚者の保護と更生にかかわる実態を解明することを目的とし、上記の2つの課題に取り組んでいくが、今年度(2023年度)はとくに、(2)に注力し、地域で生活する「不具廃疾」の刑余者に対する保護について検討する。 推進方策としては、浦和監獄川越分監による年次統計書を時系列に整理するとともに監獄事業の専門誌である『監獄協会雑誌』『保護時報』等を精査し、障害のある少年受刑者に対する出獄後対応について把握する。また、障害者の地域での生活状況に関しては、中央慈善協会の機関誌である『慈善』や救済事業研究会発行の『救済研究』等を用いて情報を収集する。研究の対象期間は、浦和監獄川越分監が少年監に指定され、統計書の編纂がはじまる1912(明治45大正元)年頃から少年法の制定により非行・犯罪少年に対する法的枠組みが規定され、川越分監が川越少年刑務所として独立する1923(大正12)年頃までとする。 さらに今年度(2023年度)は更生保護事業所の関係者で少年矯正・少年行刑にも関わりのある方へのインタビュー(聞き取り)を実施し、障害のある受刑者の生活実態について有益な情報を得られるように計画している。
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Causes of Carryover |
〔次年度使用額が生じた理由〕 ・予定していたインタビュー(少年矯正・少年行刑関係者への聞き取り)がコロナ等の関係で延期となり、そのための諸費用が持ち越しとなっているためである。また、従来対面で実施されていた学会や諸研究会が引き続きリモート開催であったことも、予定費用が未使用となった要因である。 〔使用計画〕 ・今年度(2023年度)は、資料収集のための日帰り交通費及び研究会等への参加に必要な宿泊費等に使用する予定である。また、文献保存のためのスキャナーを購入する計画である。ある。
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