2023 Fiscal Year Research-status Report
演劇論を基盤とした「アートとしての授業」の理論と方法
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22K13630
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
田中 怜 筑波大学, 人間系, 助教 (30835492)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
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Keywords | ドイツ教授学 / 教えのアート教授学 / 鍵的問題 / 教育化 |
Outline of Annual Research Achievements |
2023年度は、ドイツとスイスで展開されている「教えのアート教授学(Lehrkunstdidaktik)」の活動について調査を継続するとともに、それを通して新たに見えてきた「時代に典型的な鍵的問題(epochaltypische Schuesselprobleme)」(以下、「鍵的問題」と略記)ならびに「社会問題の教育化(Paedagogisierung sozialer Probleme)」(以下、「教育化」と略記)をキーワードに据え、次の3つの研究課題について基礎的な調べと学会発表、論文投稿を進めてきた。 第一に、ドイツの教授学者ヴォルフガング・クラフキ(Wolfgang Klafki)の教授学、中でも彼のカリキュラム構想としての「鍵的問題」について、研究の現状とその理論的な可能性・課題を整理した。クラフキは生前教えのアート教授学の活動に部分的に携わっていたが、その全容は必ずしも明らかではなかった。今年度は教えのアート教授学とクラフキの接点を鍵的問題に見出し、鍵的問題の構想の具体やそれぞれの関係性を精査して学会発表と論文投稿を行った。 さらに第二に、クラフキの「鍵的問題」を含む社会問題の「教育化」についてドイツ語圏の研究状況の基礎的調査を行った。これによって、学校の中で社会問題を取り扱い、そして学校教育を通して社会問題の解決を志向する、学校と生活(社会)との間の二重の連関について、いかなる議論が展開されているのかという点の把握を試みた。 第三に、昨年度まで検討を進めてきた教えのアート教授学の基本的な性格や概要について、学会発表を行った内容を論文としてまとめて投稿することで、活字として公表することができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画以上に進展していると自己評価する根拠は以下の2点である。まず第一に、計画段階では実証的に突き止めることができていなかったヴォルフガング・クラフキの「鍵的問題」の構想と教えのアート教授学との間の関係性について、文献調査を基に明らかにすることができたためである。これは一方でクラフキが鍵的問題を最晩年にどのように発展させようと試みていたのかという点の解明につながり、他方では、教えのアート教授学というこれまで日本ではほぼ知られていなかった授業づくりの潮流との交流があったことを示唆するものである。 第二に、今年度の研究活動を通して、社会問題の「教育化」という発展的な研究課題の方向性を獲得することができたためである。「教育化」については日本でも一部の先行研究を除いてほとんど知見が蓄積されてきておらず、特にドイツ語圏の議論は分析の対象として永らく取り上げられてこなかった。今年度は「鍵的問題」というひとつの社会問題を取り扱うカリキュラム構想に留まらず、そもそも学校の中で学校外の社会問題を取り扱い、そしてそれをもってして社会問題そのものの解決に寄与しようとする志向性自体を問い直す視角を獲得することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
2024年度以降の研究の推進方策は、次の3点にまとめることができる。 第一に、引き続き教えのアート教授学についてその理論的な展開を追跡することである。既に2年間の研究活動を通して、この教授学の基礎的な性格や方針については把握し、学会発表や論文投稿を通して活字にすることができた。2024年度以降は、そうした運動の現代的な動向を把握することで、「アート」を主軸にした教授学の現代的発展を追跡していく。 第二に、クラフキの「鍵的問題」について、2023年度に残された検討課題に取り組むことである。具体的には、クラフキがその語の下でどのような授業を念頭においていたのか、またこの語は1990年代から2000年代のドイツ諸州のカリキュラムにどのような形で浸透していたのか、カリキュラム構想の理論と実際を検討していく。また今年度学会発表を行った内容も、随時各種学会誌に投稿し論文として公表していく予定である。 第三に、社会問題の「教育化」について引き続き基礎的な調べを進め、その理論的な枠組みを解明するとともに、実際の事例分析(ケーススタディ)を展開していく。
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Causes of Carryover |
当初計画として予定していたドイツ出張が、本務校の異動等の環境の変化により見直しせざるをえなかったため使用額に変化が生じた。これらの使用額は翌年度に海外出張旅費として使用する予定である。
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Research Products
(6 results)