2022 Fiscal Year Research-status Report
教育長の行動分析を通じた地方教育行政の政治力学の解明
Project/Area Number |
22K13632
|
Research Institution | National Institute for Educational Policy Research |
Principal Investigator |
廣谷 貴明 国立教育政策研究所, 教育政策・評価研究部, 研究員 (70880160)
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2026-03-31
|
Keywords | 教育長 / 教育行政 / 地方教育行政 / 教育委員会 / 地方政治 / 教育政策 / 教育と政治 |
Outline of Annual Research Achievements |
教育長の行動がいかに教育政策に影響を及ぼすかという課題を明らかにするため、2022年度は全国の地方政府の教育長を対象とした悉皆調査を実施した。調査では、2021年度時点の教育長の地方政府内外の各アクターとの接触行動、接触頻度や政策選好、その他性別や年齢、学歴等について回答をいただいた。この調査により、まずは教育長の行動の実態把握を行った。調査の回収率は都道府県36.2%、市区町村33.7%であった。 調査の基礎集計の結果、接触行動と政策選好について次の2点が明らかになった。第1に教育長の各アクターとの接触行動に関して、最も接触頻度が多かったアクターは教育委員会事務局職員であり、次いで知事・市区町村長、副知事・副市区町村長、知事・首長部局職員、教育委員、所管学校の校長、副校長・教頭、地方議会議員等のアクターとの接触が多かった。一方で、所管学校の教諭、文部科学省職員、NPO、民間企業等、ルーティン的な接触が少ないアクターも観察された。教職経験と行政経験、両方の経験がある教育長の方が、特に首長部局のうち、政策・企画関連部局との接触が多かった。 第2に教育長の政策選好について、教育長は教育に対して財政拡充を望み、あらゆる人々への平等な支援を志向すること、または教育政策の立案・形成・決定においては多様な者に権力を分散させることや一般行政との連携促進を志向する等の政策選好をもつことを明らかにした。特に一般行政との連携については、行政経験を積んだ教育長の方が、当該選好をもちやすい傾向にあった。 上記の研究成果について2022年度の日本教育行政学会で報告を行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は、まずは教育長の行動や政策選好に関する実態を把握することを目標としていた。調査を終え、データの基礎集計を完了させたととともに、日本教育行政学会で集計結果及び基礎分析の結果を報告することができた。分析により、教育長の経験によって、各アクターへの接触行動や政策選好が変わりうることを明らかにできたことは、今後のデータ分析結果の考察を行う上で、1つ重要な知見となる。さらに次年度以降行う予定である分析に関連するデータ整備も同時並行で進めることができた。 具体的な成果も得られていることから、おおむね順調に進展していると判断した。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は教育長の行動や政策選好がいかに教育政策に影響を与えるのかについて、今年度得られた調査データを、首長、議会、教育委員会、教育費に関するデータと組み合わせながら分析を進めていく予定である。 さらに2024年度中にもう一度教育長を対象とした調査を行う予定であり、調査を通じて地方政府レベルの教育長パネルデータを構築する。これにより、教育政策に影響を与えうる要因が、地方政府の社会経済環境によるものなのか、あるいは教育長の力量によるものなのか、同一地方政府間の比較により明らかにすることが期待できる。
|
Causes of Carryover |
当初の計画では、国立国会図書館に所蔵された地方紙を活用して、教育長のキャリアに関する情報を収集する予定であった。しかし、データ分析を充実させるために実施した教育長を対象としたWeb調査に大きく予算をかけることとなったため、国立国会図書館にて膨大な地方紙を複写するだけの予算を確保できなかった。ただし、2022年度は代わりに時事通信社のiJAMPから得られるだけの情報を収集した。iJAMPを通じた情報収集によっても、まだ十分に収集しきれていないデータ(教員の人事異動に関するデータ)があるため、その収集を目的に次年度使用額とした。具体的には、①国立国会図書館にて各都道府県の教員の人事異動に関する情報が記載されている地方紙の複写を行うこと、②国立国会図書館に地方紙が所蔵されていない都道府県については、直接当該都道府県の図書館(岐阜県、奈良県、山口県)へと赴き、地方紙を複写すること、以上2点のために使用する計画である。次年度になってからの方が、令和5年4月の人事異動について把握できるため、より効率的に資料収集ができると判断した。
|