2023 Fiscal Year Research-status Report
貧困層の経済・教育達成政策の効果分析―ケニアの教育費支援・乳幼児ケアを事例に
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22K13658
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Research Institution | Soka University |
Principal Investigator |
島田 健太郎 創価大学, 教育学部, 講師 (90829178)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 格差是正 / 教育費支援 / ケニア / 乳幼児ケア / 世代間移動 |
Outline of Annual Research Achievements |
教育普及が開発途上国での相対的貧困を顕在化させた。今後は格差是正策を中長期的な視点で検証することが必要である。そこで、本研究は「上方世代間移動(貧困層の経済・教育達成)に影響を与える教育制度・政策はどのようなものか」という学術的問いを設定した。本研究の目的は、公正な教育制度構築を支援する格差是正策の効果を解明することである。特に教育費支援、乳幼児ケアに関する政策の効果を検証する。具体的には、(1)格差是正作の動向を調べる、(2)複数のデータセットを組み合わせより精緻な分析(擬似パネルデータ化など)の実施で、教育費支援策、乳幼児ケアの効果を検証する。本研究の独自性は、経済的制約の改善、早期教育介入の中長期的な効果を検証する点である。創造性は、複数データの結合による分析精度向上の方法論である。本研究は教育制度に限らず社会保障政策の改善への波及効果が期待される。 今年度は、研究計画を踏まえて世代間移動への効果のある政策についての研究が進んだ。初等教育無償化政策の長期的な影響を検証した論文がまもなく出版される予定である。初等教育無償化政策によって恩恵を受けた世代は、上方教育移動を果たした一方で、貧困のサイクルを脱却するのに、十分な賃金の上昇には至っていなかった。今後、格差是正策に関するレビューについては現地協力者と連絡を取り、調査を開始する予定である。また教育費支援による進学の影響、育児リテラシーに関する分析についても、今年度に着手する予定である。奨学金、社会保障政策による就学改善の影響について、分析に使用するデータを入手できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は、「上方世代間移動に影響を与える教育制度・政策はどのようなものか」という問いのもと、貧困層出身者の上昇移動を促す格差是正策(教育費支援・乳幼児ケア)の影響を考察する。3つの観点から進捗状況を報告する。 (1)格差是正策の動向の把握は、ケニア・ナイロビ市内での聞き取り調査を想定していたが、現地の研究協力者とのコンタクトが取れた為、遠隔調査での依頼も検討している。政策実施状況の文献レビューも依頼し、その成果を今年度中に一部報告する予定である。したがって、概ね順調に進んでいる。(2)世代間移動への効果は無償化政策や奨学金支援といった教育費制約を抱える子ども達を対象に、家計調査を用いて分析を行なってきた。成果の一部は論文への投稿や学会での発表で行った。擬似パネルデータにする家計調査のデータセットを入手したこと、分析枠組みについての整理が進んだことで順調に進んでいるとした。最後に、(3)高等教育進学率上昇への効果に関する研究についても順調に進んでいる。分析に使用するデータの結合を行い、分析を進めている。最新のデータセットには幼児のリテラシーに関する変数や社会保障に関する受給額もあるため、(2)の分析と関連付けて分析を行う枠組みの選定を行なっている。 昨年度は学内の様々な業務の中で本研究が進められなかったが、今年度は業務調整や日々の行動計画を見直し、研究する時間を確保し、分析や執筆に充てることができた。文献を整理するツールや執筆支援ツール、また、研究環境を整えるために機器や書籍の購入したことも大きかった。さらに、新たにセミナーなどに参加することで新しい研究手法の学びに繋がり、より効率・効果的に研究活動を遂行することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、「上方世代間移動に影響を与える教育制度・政策はどのようなものか」という問いのもと、貧困層出身者の上昇移動を促す格差是正策(教育費支援・乳幼児ケア)の影響を考察する。3つの観点から今後の研究の推進方策を報告する。 (1)格差是正策の動向の把握について、今年度は遠隔調査の実施か否かを上半期に決定する。また、政策実施状況の文献レビューの支援を依頼する。その成果を今年度中に一部報告する予定である。そのレビュー内容をもとに下半期に調査項目を選び、調査許可証の申請を進める。 (2)世代間移動への効果について、新たに入手した家計調査のデータセットを既存のデータセットと結合することを目指す。また、新たに構築した分析枠組みに沿って、予備的調査結果を出して成果を研究会などで報告する。 (3)高等教育進学率上昇への効果について。現在進行中の分析を終えて、成果を報告、論文にまとめて投稿する。 より確実に研究時間を確保するため、業務調整や行動計画を見直すだけでなく、職場や研究者のネットワークを用いて、それぞれのタスクが遅滞なく進むような仕組みづくりをしていく。新たに導入した研究支援ツールを有効活用し、生産性を上げていき、今年度は成果の発信に力を入れていく。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主な理由は、研究遂行初年度の学内業務過多による研究時間確保の困難さがある。海外渡航を実施する前の準備がままならず、結果として渡航や現地調査に係る費用の多くが繰越となった。今年度は、予備調査に向けての訪問を実施し、論文投稿を通じて一定の予算執行が可能となった。 今後の使用計画は、以下の通りである。文献レビュー支援、(遠隔・現地)調査の執行、成果の発信(国内外の研究雑誌など)、研究活動を発信するWebサイトの整備、研究会での成果報告に係る費用である。次年度は最終年度であるが、初年度の遅れを取り戻すために一年の延長申請を行う予定である。残り2年で予算執行が可能である。
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