2023 Fiscal Year Research-status Report
歌声の音響分析と印象調査および歌い手のフォルマントの生成に関する研究
Project/Area Number |
22K13773
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Research Institution | Osaka University of Arts Junior College |
Principal Investigator |
高橋 純 大阪芸術大学短期大学部, その他部局, 講師 (50883055)
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Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
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Keywords | 歌声 / 歌い手のフォルマント / WAVE / オペラ歌唱 / Singer's Formant |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、WAVEを用いて歌唱中の口腔形状と舌の動きを計測する実験を行った。被験者は、プロのテノール歌手と歌唱訓練を初めて1年程度の学生の合計2名とした。タスクは/a/-/x/-/a/の3つの連続した母音で、同一音程の進行と完全五度跳躍進行の音型とした(/x/は/a/, /i/, /u/のいずれか)。被験者は、Waveのセンサーを口唇の両端の2点と舌の正中面に舌先、舌先から1 cm、2 cmの3点に装着して歌唱タスクを実施した。歌唱中のセンサー位置と音声は同時に記録されるため、センサー位置と歌い手のフォルマント(以下SF)の強さの指標であるSF占有率(歌声スペクトルの全パワーに対して2-4 kHzのパワーが占める割合)を比較検討した。 その結果、全てのタスクにおいてプロ歌手は学生よりSF占有率が高かった。また、プロと学生で舌上のセンサーの総移動量を比較したところ、同一音程同士ではプロは学生に比べて小さい傾向が見られた。これは、同一音程同士では、プロの歌手はSF占有率の高さを維持するために、舌による母音変化に伴う口腔の形状の変化を抑えながら歌唱していることを示唆する。一方、五度跳躍進行では、プロは学生に比べてセンサーの総移動量が大きい傾向が見られた。先行研究から、SF占有率の高いプロでは、高音発声の際に顎を開いて喉頭を下げ、咽頭腔を拡大させていることが明らかになっており、跳躍時(高音発声時)に顎の開きに伴って舌の位置が大きく変化して総移動量が増加したと考えられる。 口唇両端のセンサーは、プロの方が全てのタスクにおいて総移動量が少なかった。歌唱指導では、/i/や/u/の母音発声時に口唇の横方向の極端な変化を避けるように指導(/i/は横に開き過ぎない、/u/は窄めすぎない等)されることがあり、プロは母音や音高の変化における歌声の音色や音質の急激な変化を抑えるためだと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
被験者の人数は予定より少ないが、歌唱タスクの数を増やすことにより必要なデータは得られていることからおおむね順調に進展している。また、すでに解析に必要なプログラムはある程度完成しており、それを用いてさらに被験者を増やして検討することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、各センサーの変位とSF占有率の変化についての詳細な分析を進めている。各センサー位置を時系列に沿ってプロットすることにより、歌唱タスクの定常部と変遷部を特定し、SFの変化と比較を行っている。さらに、全てのセンサーを三次元でプロットし、口蓋の情報を加えた動画として観察するためのプログラムの構築を進めている。次年度も実験を継続し、さらに被験者を増やしていく予定である。
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Causes of Carryover |
国立国語研究所との共同研究が採択されたため、前年度にひきつづき当初の研究計画時に予定していたWAVE実験機器のレンタル料が不必要となった。次年度も随時予算を再編成しつつ研究費を執行する予定である。
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