2022 Fiscal Year Research-status Report
向社会的行動の効果を規定する対人的相互作用と文化的背景
Project/Area Number |
22K13791
|
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
|
Project Period (FY) |
2022-04-01 – 2025-03-31
|
Keywords | 向社会的行動 / 他者の期待 / 罪悪感回避 |
Outline of Annual Research Achievements |
直接的な援助要請の少ない日本においては、他者のニーズや期待を察しながら援助行動を実施することが求められている。本研究では、困っている受け手の期待と、援助を実施する送り手の援助提供意図との関連性を明らかにすることを目的とし、明確な援助要請が行われていない状況において、受け手のニーズを洞察することによって援助提供が促されるプロセスを明らかにする。 R4年度に、職場での援助提供場面に着目し、受け手の期待が送り手の罪悪感や援助提供意図に与える影響を検討する2つの研究を実施した。研究1では、参加者に職場で援助を提供した場面を思い出してもらい、受け手の期待と送り手が援助しなければ感じたであろう罪悪感を評価してもらった。その結果、受け手が同じ立場の同僚である場合、または、職場において援助行動が実施される頻度が低い場合、受け手の期待と送り手の罪悪感の関連性がより強いことがわかった。研究2では、さまざまな援助提供場面を示したシナリオを提示し、参加者にそれぞれのシナリオについて、援助を提供したいと思う程度を尋ねた。研究2の結果からは、受け手が援助を期待していると思うと、罪悪感を回避するために、援助提供意図が強くなることが明らかになった。 この2つの研究を通して、期待されていることを実施しなければ感じる罪悪感を回避することが援助提供を規定する一つの要因であることがわかった。また、援助を提供しない場合に罪悪感を感じるかどうかは、送り手と受け手の関係性や二人が所属する職場における援助提供頻度によって決まることが明らかになった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
R4年度に、計画していた2つの研究を実施することができた。研究1では、参加者の過去の援助提供経験について尋ね、受け手の期待と送り手の罪悪感の関連が二人の関係性や職場の規範によって変わることが明らかになった。研究2では、シナリオ実験を実施し、受け手の期待を操作し、援助提供意図に対する影響についても検討した。その結果、受け手の期待が送り手の罪悪感を引き起こし、送り手の援助提供意図を増幅するというプロセスを明らかにした。
|
Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究では、送り手が受け手の期待を察し、援助を提供する場面に着目した。しかし、日常においては、相手の期待を正確にとらえることが難しく、その期待に応えることができない場合もある。今後の研究では、向社会的行動を行う意志があっても実行できなった場合と実行された向社会的行動が受け手の望んでいたことではなかった状況に着目し、送り手の感情とその後の向社会的行動の実行意図、受け手と送り手の関係性について検討を行う。 今後の研究では、シナリオ実験、または向社会的課題を用いたゲーム実験を実施し、向社会的行動の不実行(意志はあったが,実行しなかった)と不成功(実行したが,受け手の期待に答えられなかった)といった状況に着目する。シナリオの内容やゲームでの実験操作を通して,実施される向社会的行動と受け手の期待とのずれを実験的につくり、送り手の感情等への影響を調べる。向社会的行動の不成功が送り手と受け手の相互作用によって生まれるプロセスとアウトカムをより詳細に検討する。
|
Causes of Carryover |
R4年度に参加した学会はオンライン、または東京で開催されたため、出張費を節約することができたので、次年度使用額が生じた。次年度では、オンラインモニターを対象に実験を実施することを予定しているため、実験参加者への謝金が必要である。また、実験の実施や集めたデータの分析の補助が必要なため、リサーチアシスタントを雇用するための人件費が発生する。
|